企業の最大の資産である「人財」の価値は数値から読み取れるか

金額に換算できない「人」の価値

 

「企業は人なり」-松下幸之助さんの言葉です。企業にとっての最大の資産は、「人」。これは、日本の大半の経営者が共通認識しているところでしょう。人材を「人財」と記載するところも多く、企業にとっての「財産」であるという認識が浸透しています。

 

インターネットがいくら普及しても、企業の製品やサービスは、人によって作られ提供されています。当たり前ですが「人」なしでは、企業活動は成り立ちません。

 

しかし、この「人」こそが、企業にとって最大の価値です。しかし、金額に換算できる「価値」に関するものが対象となる財務情報は、「人」の価値を適切に評価することが困難です。

 

人材に関する財務情報に、給与などの人件費があります。しかし、人件費は人材の価値を表していると言えるでしょうか。また、A社とB社の人材の価値を比較しようとするときに、人件費を比較することで、適切な評価を行えるでしょうか?

 

人件費が高いからといって、人材の価値が高いとは言えません。むしろ、投資家の中には「人件費を削って利益を高めることに注力してほしい」と思う人もいるかもしれません。

 

これは、財務情報だけで企業の価値を評価することによる弊害です。人は、誰一人として同じ人はいません。だからこそ、他社との違いが生まれ、差別化要因となり、競争優位性が高まります。企業価値を適切に評価するために、押さえておくべき人財に関連する情報について見ていきましょう。

 

人材による差別化と企業の将来性

 

まず、企業が開示している「有価証券報告書」では財務情報が中心となるため、人財の価値を把握することは困難です。そのため、企業が開示している他の情報を入手する必要があります。

 

一方、企業が開示している「統合報告書」は、財務とそれ以外の情報について「つながり」のある形で提供されることを目的としているため有効な情報源です。統合報告書を活用することにより、人材についての情報とそれらがどのように財務数値にインパクトを与えるかといったことが見えやすくなります。

 

人の価値は、金額に換算できない部分が大半です。例えば、誰かと結婚をしようとするとき、相手の「収入レベルはどのくらいか」だけで結婚相手の価値は判断できません。

 

また、給与というのは過去のパフォーマンスに基づく現時点での会社によるその人の評価の結果であることが大半です。もちろん、期待値として反映されている部分はありますが、必ずしもその人の「将来性」が反映された評価であるとは言えません。

 

企業を評価する際には、「長期にわたって価値を創造しつづける能力があるか」という観点から行うことが大切です。つまり、企業の「将来性」を見抜く目利き力が投資家には求められています。

 

お金に換算できる人の価値は極めて限定的であるため、情報として開示する際には、記述による説明が多くなります。しかし、記述による説明だけでは、客観性にかけ、説得力が低くなるため、何らかの定量化が必要となります。人財に関連して、企業が開示している定量化された情報(KPI)のいくつかをピックアップしてみるべきポイントを押さえましょう。

 

人材に関連する指標のポイント

 

ますは、「離職率」です。離職率が高いからと言って、ダメな会社とは言えません。ある会社Aでは、離職率が高くなっても、転職した先や独立などによって活躍してくれればよいというスタンスであるといいます。

 

これは、「A社出身の人材は優秀な人が多い」との評判が高まり、巡り巡ってA社の企業価値の向上につながるからです。

 

一方、離職率の低い会社は、「従業員の企業に対する忠誠心が高い」「人材が有するノウハウなどが流出しにくい」というプラスの面を評価することもできるでしょう。もちろん、人材採用には多額のコストがかかるため、離職率が低いということは財務へのインパクトの点でもプラスに働くことも考えられます。

 

次に、「障がい者雇用率」です。現在、多くの企業において「多様性(ダイバーシティ)」という言葉が、企業価値創造におけるキーワードとなりつつあります。

 

多様性といった場合には、例えば、「性別」「障がいの有無」「国籍や言語の違い」を超えて、共に働き価値を共創するというメッセージが込められています。制度上、障がい者の法定雇用率が定められていることもあり、多くの企業でこの指標が開示されています。

 

障がい者雇用率も、「高ければ良い」「法定雇用率を満たしていればよい」というわけではありません。高い障がい者雇用率の会社として知られているところでも、実は離職率も高いため、定着率が低いところもあります。

 

会社として、の障がい者を「雇用する目的」「活用の内容」などの記述情報と合わせて数値の意味を読み解く必要があるでしょう。

 

最後に、「海外研修者数(または比率)」です。近年では「グローバル」という言葉も、「多様性」と同様に一般的になりつつあります。

 

グローバル展開する会社においては、「グローバル人材の確保」が課題として挙げられています。しかし、このグローバル人材の意味するところの定義が明確でない企業は多いです。「グローバル人材=英語ができる人」ではもはやなくなってきています。

 

企業が人材に対して海外研修を提供することは、グローバル人材を育成する上で重要な施策の一つでしょう。しかし、その数値が高まることによって、どのような結果を企業として求めているかが重要になります。

 

「海外取引先との価格交渉力が高まる」「海外拠点の展開・開始のスピードが上がる」などの財務インパクトへの道筋が分かるような説明があるかどうかもチェックすべきポイントです。

 

いずれの場合も、数値の増減だけでなく、その背後にある企業の人材に対するスタンス、ビジョン、戦略などの情報を包括的に捉えて判断する必要があります。

 

これが企業の「他社との違い」と「将来性」を見抜くポイントとなります。今後は、企業と投資家の「建設的な対話」が求められてくるようになります。企業側の説明が十分でない場合は、投資家が積極的に、上記のような「財務へのつながり」の観点から質問をすることも大切です。