中長期における「動機づけ」としての役員報酬

インセンティブとしての役員報酬

企業の経営が「健全に行われているかどうか」を確かめるためには、ガバナンスが効いているかどうかを見極める必要があります。企業のガバナンスを構築する上で指針となるものとして、「ガバナンス・コード」があります。投資家にとっては、企業のガバナンスを理解して分析する上での枠組みとなります。

このガバナンス・コードの中には、「経営陣の報酬は、持続的な成長に向けた健全なインセンティブの一つとして機能するよう、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである」(補充原則4-2①)という記述箇所があります。

投資家側においては、投資先企業の役員報酬がどのような時間軸を基準に、どのような割合で決定されているのかを確認することが、ガバナンスの効果を判断する材料の一つになります。

現在、役員報酬は企業の財務業績に連動しない「固定報酬」、企業の財務業績に連動する「業績連動報酬」があります。業績連動報酬については、一年を区切りとする「短期業績連動報酬」と複数年度の業績や企業価値に連動した「長期業績連動報酬」に分けられます。

固定報酬や短期業績連動報酬が、役員報酬の大半を占める場合があります。この場合、企業として長期の価値創造を目指していても、経営層は短期的なインセンティブによって短期志向化する可能性があることが問題視されています。

そのため、長期連動報酬の割合を高めることは、短期志向の経営に陥らないことへの解決策の一つと考えられています。

2つの「動機づけ」

ガバナンス・コードでは、役員報酬をインセンティブの一つとして明記しています。このインセンティブというのは、「動機づけ」を意味します。ここで、心理学的な視点から、「動機づけ」についても考えてみたいと思います。

心理学的には、「動機づけ」には2種類あります。一つは、ガバナンス・コードにもある「インセンティブ」であり、これは外的な動機づけを意味します。もう一つは、内的な動機づけを意味する「モチベーション」です。

企業経営においてインセンティブが中心となっているのは、財務や会計のリサーチを基にしており、心理学や行動学的研究から検討されてこなかったからでしょう。

実は、行動学的研究からは、金銭的なインセンティブが「パフォーマンスを制限する」「パフォーマンスを低下させる」といった可能性があると発見されています。

他にも、「インセンティブはモチベーションを下げる」「創造性を破壊させる」「非倫理的行為を助長する」「短期志向を促す」といったことが指摘されています。

これは、役員に限らず従業員においても、仕事の動機づけが必ずしも給与に比例するとは言えないことからも明らかです。

報酬が「真の動機づけ」になっているか?

では、どのようにしてモチベーションを上げればよいのでしょうか?

例えば、動機づけ理論である「自己決定理論」では、「自律」「他者との関係性」「達成感」が主要な内的な動機づけになるとされています。本来は、これらの点も考慮して動機づけの仕組みを構築すべきでしょう。

ガバナンス・コードで求められているのはインセンティブである役員報酬の改革です。内的な動機づけであるモチベーションについては、明確に言及されていません。

しかし、投資家はインセンティブとしての役員報酬が、投資先企業において「真の動機づけ」になっているかどうかを見極める必要があります。インセンティブが、逆に中長期のパフォーマンスにマイナスの影響を与える可能性もあるということを念頭に、企業の開示している情報を理解し、対話する必要があります。

役員報酬の額や割合は、他社との比較が可能です。一方、モチベーションの内容は内的な動機づけのため、それぞれの企業によって独自のやり方が求められることになります。独自のモチベーションの上げ方がその企業の独自性となり、他社との差別化要因として捉えることもできます。

インセンティブだけでなく、どのようなモチベーションがあるのかにも目を向けてみると、中長期的なパフォーマンスに対する「確からしさ」を高めることができます。