「投資するほど企業価値を毀損(きそん)する状態」とは?

企業が継続するためにはコストを上回るリターンが必要

 

「銀行からの融資」「株主からの出資」」は、企業が「将来にわたり無期限に事業を継続すること」を前提に行われています。この前提は、「継続企業の前提」、または「ゴーイング・コンサーン(going concern)」などと呼ばれています。

 

企業が継続していくためには、本業からの稼ぎを継続的に挙げていくことが必要です。稼ぎの中から、融資してくれた銀行への利息や、出資してくれた投資家・株主へ配当などを支払う必要があります。

 

融資や出資といった形で、企業が調達するお金は、どちらも「タダ」ではありません。

 

そのため、調達した資金を元手に、事業で稼ぎ、その中から、融資や出資の見返りとして、利息や配当を支払うのです。そのためには、本業からの稼ぎが、銀行や投資家・株主へ支払う金額を上回る必要があります。

 

例えば、Aさんが銀行から100万円を借金して、株式投資を行ったとします。借りたお金に対する利率が5%だったとします。Aさんは、投資により5%を上回るリターンを得る必要があります。例えば、100万円の株を買って、120万円になった時に売却するなどして売却益というリターンを得れば、投資リターンは20%となります。

 

一方、5%以下の投資リターンの場合、Aさんのもとには損失しか残りません。銀行へ元本と利息を支払うために、Aさんは自分の貯金から支払うほかありません。Aさんにとって、わざわざ銀行から借りて投資をする意味が無くなります。

 

同じように、もし、銀行や投資家・株主へ支払う利息や配当よりも稼ぎ(利益)が低い場合、企業が投資をすればするほど、企業の価値を毀損する状態に陥ります。これは、継続企業の前提が崩れる要因とるため、投資家にとって見るべきポイントの一つです。

 

「投資をすればするほど企業価値を毀損(きそん)してしまう状態」とは、「投下資本利益率(ROIC)が加重平均資本コスト(WACC)を下回っている場合=(ROIC<WACC)」です。ROICとWACCの意味について、詳しく見ていきましょう。

 

投下資本利益率(ROIC)

 

企業の収益性を測る指標の一つに、ROIC(ロイク)があります。ROICとは、Return On Invested Capitalの略で、投下資本利益率と訳されています。

 

ROICは、「事業のために投じたお金(投下資本)が企業の儲け(利益)をどのくらい生み出したのか」を効率性の観点から見るための指標です。

 

ROICの分母である投下資本の数字を、会社の決算書からいくつか抽出する必要があります。また、企業や評価者によって何を投下資本に含めるかは異なるため、必ずしも一つの明確な解があるというわけではありません。

 

投下資本を計算する方法には、大きくわけて資産べースと負債ベースのアプローチの2つがあり、以下に説明するように分母に何を選択するかが変わってきます。

 

まず、企業のバランスシートの左側を使う資産ベースのアプローチでは、投下資本を計算する際「運転資本+固定資産」を使用するのが一般的です。運転資本は、「売上債権+在庫-支払債権」ですので、一部バランスシートの右側の数値も入れて計算する必要があります。

 

資産ベースのアプローチ


一方、負債ベースのアプローチでは、投下資本を計算する際「調達された資金の額」を使います。つまり、「有利子負債」と「株主資本」を使用するのが一般的です。

 

負債ベースのアプローチ


加重平均資本コスト(WACC)

 

企業がビジネスを行うのに必要な資金は、主に2つの方法で調達しています。一つは、銀行からの借入など元本に加えて利息の返済が必要な資金です。もう一つは、株主・投資家からの資本金で、これは返済する必要のない資金です。

 

企業にとっての資金調達コストとは、裏を返せば資金提供者にとっての期待するリターンの大きさです。期待するリターンの大きさは、銀行と株主・投資家では異なります。なぜなら取っているリスクの大きさが異なるからです。

 

バランスのとれた調達コストを算出するためには、両者の調達コストを単純平均するのではなく、出資額(もしくは依存度)に応じた重みづけをする「加重平均」という方法を使う必要があります。

 

つまり、出資額の違いをリターン率に反映させるやり方です。このようにして算出されたコストを、「WACC(ワック)」といいます。

D:有利子負債
E:株主資本
kd:負債コスト
ke:資本コスト

 

例えば、銀行からの借り入れが100億円(D)、そして株主からの出資が200億円(E)あったとします。借入に対する金利が6%(kd)、株主の期待するリターンが15%(ke)だったとします。(税金は無視して考えます。)

 

WACC=6%×(100億/300億)+15%×(200億/300億)=12%

 

以上のように、関心のある企業の投下資本利益率(ROIC)と加重平均資本コスト(WACC)を計算してみてください。「ROICが、WACCを上回っている=(ROIC>WACC)」状態が理想的です。ROICとWACCの比較により、「企業が投資をすればするほど、企業の価値を毀損する状態」でないか確認しましょう。