企業の長期の価値創造に与える役員報酬の決定とチェックポイント

役員報酬とは

 

会社は、従業員へ労働の対価として「給与・手当」のほか、取締役と監査役へ職務執行の対価として「役員報酬」を支払っています。会社と従業員との力関係は同じではなく、従業員は原則として会社の指示に従わなければなりません。一方、会社と取締役及び監査役との関係は対等であり、どちらからも解約する自由があります。

 

取締役とは、株主総会において選任された経営のプロです。監査役とは、取締役の職務執行状況の適否についてチェックする役割があります。

 

取締役と監査役の会社における位置づけは、以下の図の通りです。

短期的影響と長期的影響を考える

 

取締役と監査役の役員平均報酬が1億円を超える日本企業は、数十社あります。このような高額な役員報酬は従業員の「給与・手当」と同じく、損益計算書の利益に影響を与えます。しかし額の大きさではなく、短期的な視点と長期的な視点の両方を持つことが大切です。

 

役員報酬の「額」については、短期的な損益への影響を損益計算書で確認することができます。それだけでなく、長期的な視点から「役員報酬の決定基準」が企業の未来価値に影響することも考慮する必要があります。

 

取締役や監査役にとって、役員報酬は大きな動機づけの一つです。その報酬額の決定方法によって、重要な経営の意思決定が左右される可能性があります。また、「既存の優秀な役員が外部へ流出してしまう事を阻止するため」「必要に応じて外部から優秀な人材を獲得するため」にも大切です。

 

そのため投資家は、報酬額だけでなく、「取締役や監査役がどのような動機づけの下に、経営に関与しているか」の情報を知り、企業価値を正しく見極める上で活用していくことが重要となります。この点について詳しく見てみましょう。

 

チェックポイント:「誰(Who)」「どのような基準(How )」「いつ(When)」

 

役員報酬に関して注目すべき情報は、「誰(Who)」が、「どのような基準(How )」で決定し、「いつ(When)」変更されたかという点です。

 

まず、「誰(Who)」については、役員報酬を決定している機関が会社の中にあるかを確認します。例えば、「報酬諮問委員会」という名前で、報酬を決定する機関を特別に設置している会社もあります。なお、「報酬諮問委員会」の設置に法的義務はなく、あくまで会社の任意で設置されます。

 

さらに報酬諮問委員会の構成メンバーを確認し、社外取締役の割合を確認します。これは、独立性の高い機関かどうかを確認するためです。この点も見るべき重要なポイントとなります。

 

次に、「どのような基準(How)」で役員報酬を決定しているかを確認します。例えば、業績に関係なく役員に支払われる固定の「基本報酬」のほか、「短期の業績(利益)」「中長期の業績」を役員報酬のベースにしている企業があります。

 

単に、基本報酬と短期の業績を基準にしている場合、中長期の業績よりも短期の業績を上げることにばかり意識が向けられる可能性があります。

 

そのため、長期のリターンを求める投資家にとっては、「中長期の業績に連動する報酬を設定し、企業の長期における価値創造の最大化にむけた報酬体系をとる工夫をしているか」という点を投資家は確認する必要があります。

 

そして、「いつ(When)」役員報酬の体系が変化したのかも重要なポイントです。

 

例えば、新しい中期経営計画がスタートするタイミングなどに合わせて、より中長期の業績に連動した形の報酬制度に変更する場合があります。このように、「変更の内容が長期における価値の最大化に貢献するような報酬体系への変動であるか」、また「変更するタイミングは妥当か」について確認します。

 

上記のような情報は、各企業のホームページや、企業の統合報告書の「コーポレート・ガバナンス」というセクションで見つけることができます。「決定プロセスを開示して、情報の透明性を高める努力をしているか」ということも、信頼性の高い企業であるかどうかの判断を行う上で重要な要素の一つとなっています。

 

以上のように、「誰(Who)」「どのような基準(How )」「いつ(When)」という観点から、「役員報酬を決定する機関は独立が高いか」「役員報酬の決定基準は長期の業績と連動しているか」「決定基準に変更があった時の理由は妥当か」をチェックし、企業の長期的な価値の評価に役立てましょう。