企業が投資家・株主へリスク情報を出す利点と欠点

リスク情報

 

投資家・株主が最も知りたい情報は、リスク情報です。リスクとは、「組織の収益や損失に影響を与える不確性」とされております。ジョン・F・ケネディが「危機という言葉は二つの漢字でできている。ひとつは危険、もうひとつは好機である。」と言ったように、「危機」という言葉は、必ずしもネガティブな側面のみを指しているわけではありません。

 

現時点では、投資家・株主は、「損失に影響を与える不確実性」であるリスクに関して、ネガティブな情報の方をより重視する傾向があります。一方、企業側は、株価への影響などからネガティブな情報は極力出したくないという心理が働きます。

 

また、企業が開示しているリスク情報の内容をみてみると、内的要因よりも外的要因の方が多い傾向にあります。内的要因は、「収益性」「製品・サービス」「情報セキュリティ」など自社独自のものがあります。また、外的要因には、「政治」「社会」「経済」といった他社にも当てはまるリスクがあります。

 

企業側として「極力ネガティブな情報は出したくない」というスタンスや、「出しても外的要因が中心」のスタンスは企業にとって果たしてプラスの効果を与えているのでしょうか。

 

ネガティブな情報のポジティブな側面

 

実は「ネガティブな情報を積極的に開示することは、企業の収益やイメージにポジティブに影響を及ぼす」ことが社会心理学的な見地から検証されています。

 

社会学者のフィオナ・リーらの実験では、まず架空の会社の年次報告書を2種類用意しました。報告書Aでは、業績不振の原因を「戦略的判断のミス」といった内的要因とする説明がされています。一方、報告書Bでは、「予想外の国内外の景気悪化」「国際競争の激化」といった外的要因によるものとの説明です。

 

被験者を半分にわけ、それぞれの報告書を読んでもらい好意的にとらえる人の数をそれぞれカウントします。そして、報告書Aを読んだ人は報告書Bを読んだ人よりも、当該会社を好意的に捉える人の方が多いという結果になりました。

 

積極的にネガティブな情報を出し、かつ自らの過ちをストレートに認める経営者は実際に存在します。それが米国バークシャーハザウェイ社のCEOウォーレン・バフェットです。

 

ウォーレンバフェットのCEOメッセージは、彼が重要と考え自ら時間をかけて全て書き、コピーライトまでつけている、他社に例を見ないユニークなものです。

 

バークシャー・ハサウェイの業績が非常に悪かった1999年のCEOメッセージでは冒頭から、「1999年の業績が非常に悪かったこと」「これは過去からこれまでの在任期間のなかで最悪のものであること」「その責任はすべて自分にあること」などがストーリー形式で語られています。

 

これは、1999年に限ったことではありません。他の年をみても、これほど「過ち」を意味する”mistake”という言葉を年次報告書のCEOメッセージで使用する会社はありません。

 

バフェットがバークシャー・ハサウェイの経営権を握ったのは1965年です。それから2014年の49年間における株価は18300倍で、これは、ニューヨーク証券取引所、NYSE MKT、NASDAQに上場している代表的な500銘柄で構成されるS&P500社の上昇率112倍と比較すると驚異的な数値であることが分かります。

 

ネガティブな情報を開示することで得られるもの

 

ネガティブな情報を自らの責任として誠実に開示することの効果は、開示しないことのメリットよりも大きいのではないでしょうか。

 

株価は必ず変動します。そして、短期で売買を行う短期投資家は、ネガティブなリスク情報に敏感に反応します。短期投資家をターゲットとするのであれば、ネガティブ情報を極力開示したくないという会社側のスタンスも理解できる部分があります。

 

しかし、長期の投資家を増やし、安定した企業経営を行いたい経営者にとっては、誠実な開示を心がける方が長期的には企業価値の増大に繋がっていきます。「誠実性」「問題を把握する能力」「問題に対する解決策の立案・実行力」などがゆるぎない信頼となり、評価されるからです。