隠せば隠すほど悪化するキャッシュフローと循環取引

  • 「損失を回避したい」という心理

 

誰しも「損」はなるべくしたくないものです。会社も、事業活動の結果,
「利益はでているか」「損失はでていないか」を計算し、確認するために、「損益計算書」を作成しています。

 

しかし、損益計算書で計算された結果、利益が出ている場合でも、実態として「損」をしている場合があります。つまり、損益計算書の利益というのは、ごまかそうと思えばできてしまう危うい存在であるということです。

 

人には、「得をするより損をしないことを選ぶ」という心理的な作用が働いています。このような心理は、行動経済学的に「プロスペクト理論」と呼ばれています。

 

人間は目の前に利益がある場合には「利益が手に入らないというリスクの回避」を優先し、損失を目の前にすると、「損失そのものを回避」しようとする傾向があるということです。

 

残念ながら、上記の心理的作用が、損益計算書の損失というマイナスを目にした経営者に、大きく働いてしまうケースがあります。

 

しかし、実際には損失が出ており、それを損益計算書上隠せたとしても、ある別の計算書を確認することによってバレてしまうことが多いのです。しかも、隠そうとする金額が高ければ高いほど、ウソが明らかになります。ある別の計算書とは、企業のお金の動きだけを示すキャッシュフロー計算書です。

 

  • キャッシュフロー計算書で企業のウソを見抜く

 

損益計算書において計算される会社の利益は、「売上-費用=利益」によって求められます。取引先や関係会社と口裏をあわせるなどすれば、売上を実際の金額以上に経常し、利益を大きく見せるといった計算書の数値の上ではごまかすことはいくらでもきるという側面があります。収入と支出が計算書上は合う、まさに「帳尻を合わせる」というわけです。

 

一方、キャッシュは利益と違いごまかしが効きません。キャッシュフローは「現金の動き」という事実に基づき計算されるため、作り手の都合で数値が変わることはありません。誰がつくっても、キャッシュの増減は同じ金額になります。つまり、キャッシュはウソをつくことができません。

 

キャッシュフロー計算書は、間接的にキャッシュの純増額を求める方法である「間接法」により計算されるのが実務において一般的です。

 

例えば、家のローンの残額が、年初は3000万円だった家のローンの残額が、年末には2800万円になっていれば、その差額である200万円が今年ローンの返済に充てられたキャッシュの金額であることが分かります。

 

キャッシュフロー計算書の出発点は、損益計算書の「当期利益」のため、損益計算書とキャッシュフローは繋がっています。

 

損益計算書の「当期利益」がプラスで、キャッシュフロー計算書の「営業キャッシュフロー」がマイナスの場合、なにか損益計算書で「まずいこと」が起きているというサインです。このように、キャッシュフローはウソが付けないので、すぐに表情に出てしまう性格をもっています。

 

  • 循環取引とは

 

特に、キャッシュフロー計算書の出発点である「当期利益」がプラスにもかかわらず、営業キャッシュフローが最終的にマイナスになっているケースは、「循環取引」の可能性を疑うことが必要です。循環取引とは、業者とあらかじめ示し合わせて相互に発注を繰り返し、架空の売上高を計上する取引の手法のことです。

 

循環取引が行われるケースでは、営業キャッシュフローの「売上債権」と「棚卸(たなおろし)資産」が極端に増加しているという特徴があります。これは、損益計算書で売上・利益をごまかした分の、「しわ寄せ」がキャッシュフロー計算書において表面化しているということです。

 

損益計算書とキャッシュフロー計算書をつなげて捉えることで、企業の粉飾の可能性を見抜くヒントになります。

 

  • 投資家の役割

 

「損をこうむりたくない」という心理は誰にでも働き、企業経営者も例外ではありません。しかし、「損失を隠したい」「利益が出ているように見せたい」と企業経営者が考えてしまう背景には、投資家の短期志向も指摘されています。

 

投資家が短期的な利益を過剰に要求すると、企業経営者も投資家からのプレッシャーで、短期志向に陥り短期的な利益の追求が主目的となってしまう悪循環が生じるのです。

 

短期的に損失を回避できたとしても、まわりまわって投資家を含む多くの人が損失を被ることになります。投資家は、企業経営者が長期的視点で企業経営ができるよう、利益だけでなく、長期の価値創造の源泉に目を向けるようにしましょう。