セグメント情報で企業の実態が「見える化」する
通常、財務諸表とは、企業の全体の財務パフォーマンスを合算してまとめたものです。合算したものだけを見ていては、企業の実態を把握することは困難です。
そのため、全体としての財務パフォーマンスを構成要素である「セグメント(=部分)」に分解して、企業の実態を把握する必要があります。その際に活用するのが、セグメント情報になります。
セグメント情報では、「事業」や「地域」を切り口に、企業の集団としての活動を分解します。それぞれの事業、または地域別に、「売上高」「営業費用」「営業利益」などが開示されています。
経営者は企業活動全体をセグメント別に分解し分析して初めて、最適な資本配分を検討することができます。したがって、この分解の仕方が最適な資本配分、ひいては企業の未来に影響を与えることは言うまでもありません。
外向けの情報と内部で管理している情報のギャップ
上場企業は、投資家保護のために、特定の情報を制度上開示しなければならず、これは義務です。義務としての情報開示においては、必ずしも企業経営の実態を反映しているとは言えない部分がありました。
セグメント情報に関連して言えば、開示のためのセグメントの決定方法により、不採算事業を隠蔽(いんぺい)するといった企業側の恣意性が入る余地があることは否めません。複数の事業を行っている企業を評価する際には、どのようにセグメントが決定されているかも重要なポイントです。
これまでは、セグメント情報に関して、外部開示用の区分と内部管理用の区分が違う事もありました。しかし、2011年3月期から新基準ができ、事業セグメントの決定には「マネジメント・アプローチ」が採用されています。
マネジメント・アプローチとは、 経営者が自社の経営成績評価のために使用している内部管理用の事業セグメントを、そのまま外部開示用セグメントとして用いることです。つまり、経営者視点をそのまま開示に反映させている部分でもあり、投資家にとって極めて重要な情報と言えます。
セグメントの決定方法については、有価証券報告書の注記で確認することが大切です。有価証券報告書は法定開示といって、制度上開示しなければならない義務的な開示のため、企業としての自由度が限定されます。
自主的なセグメント開示のデメリットと対策
そこで、統合報告書やアニュアル・レポートなどの任意で開示できる資料では、より細かい自主的なセグメント開示を行っている企業もあるため、それらの報告書にも目を通すことが、企業を理解する上で有益です。
企業によっては、セグメント別の「売上高」「営業費用」「営業利益」にとどまらず、「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」を開示している例もあります。
このように企業が自主的により詳細な情報の開示を行うことは、投資家にとっては非常に有益な情報となります。一方で、企業にとっては、競合他社に重要な情報がもれ、競争優位性を失うことを懸念する声もああります。
例えば、商品別の利益率などを開示すると、競合他社との競争が激化し、価格低下など売上や利益に大きな影響を及ぼす可能性もあります。
しかし、そのような影響を受けた際に「どのような強みがあるのか」「戦略やビジネスモデルをこれまでどのようにやってきたのか」といったことも合わせて開示することで、競合他社との差異性を強調できます。
単にセグメントべ別の数字を分析するだけでなく、企業の戦略やビジネスモデルの記述と合わせて総合的に分析・評価することが大切です。
そうすることにより、投資家は企業に対する長期の価値創造能力に対して自信をもって適切に評価することができるようになります。
単年度のセグメント情報の開示だけでなく、セグメント情報の開示の変化を経年比較してみることによって、企業の戦略の変化が見えてくるはずです。セグメント情報を活用して、適切な企業評価に役立てましょう。