投資家が短期志向に陥る心理的罠

投資家の短期志向とは

 

2009年に起きた世界的な金融危機(通称、リーマンショック)以降の株価暴落は、投資家の短期志向が一つの原因であったとされています。短期志向とは、短期的な成果を重視する動機づけが働いていることです。

 

特に、証券会社などの機関投資家においては、「株式の売買による手数料収入をメインの収益源である証券会社特有のビジネスモデル」であったり、「アナリストへの報酬体系が短期的な成果をベースに決定される」といった構造的な問題が短期志向の背景にあります。

 

しかし、もっと根本的な問題として、人は「得をすることより損をしないことを選ぶ」という心理的な作用が投資行動にも働いていることに注目すべきです。

 

例えば、「今知って得する」情報と「今知らなきゃ損」する情報、どちらか一つしか選べないとしたら、あなたはどちらの情報を選びますか?

 

どちらかと言われれば、「今知らなきゃ損」をする情報を選ぶのではないでしょうか。

 

損失回避を優先する心理

 

このような心理は、行動経済学的には「プロスペクト理論」と言います。人間は目の前に利益がある場合には「利益が手に入らないというリスクの回避」を優先し、損失を目の前にすると、「損失そのものを回避」しようとする傾向があるということです。

 

投資家が投資の意思決定において、「得をすることより損をしないことを選ぶ」とはどのような状況でしょうか。

 

例えば、あなたが投資家でA社とB社の二つの株式を保有していたとします。

 

現在、市場におけるA社とB社の株式の価格は同じ100万円です。そして、あなたはA社の株式を購入するのに80万円を、B社の株式については120万円を支払ったとします。

 

A社の株式を売却すると、市場価格100万円-購入代金80万円=20万円の売却益が発生します。このように、購入代金を上回る価格で株式を売却できた場合の売却益を、「キャピタル・ゲイン」と言います。

 

キャピタル・ゲインには逆に税金がかかります。仮に税率を20%とすると、売却価格100万円から税金4万円(売却益20万円×20%)を引いた96万円が手取り額となります。

 

一方、B社の株式を売却した場合は、市場価格100万円-購入代金120万円=20万円の売却損が発生します。このように購入代金を下回る市場価格で株式を売却した場合の売却損は、「キャピタル・ロス」と言います。

 

キャピタル・ロスについては税金が還付されます。売却価格100万円に還付額4万円(売却損20万円×20%)を加えた104万円が手取り額となります。

 

トータルでみれば、会社Bの株を売って会社Aの株を保持する方が、資産価値を最大化するという観点からは合理的です。しかし、資産価値の最大化よりも損失を回避することの方を優先してしまうという心理的作用が働く場合があるのです。

 

「損をしたくない」というのは、自らの意思決定の結果について後悔したくないとも言えます。

 

投資において自らの投資意思決定の結果、損失が生じている場合、それを売却すれば売買損失が確定します。

 

損が確定すると、自らの意思決定が間違っていたことを認めることになるため、後悔の念が生じます。そして、後悔したくないため、いつか株価が上がるだろうことを信じて、パフォーマンスの低い株式を持ち続けてしまうのです

 

またA社の株式については、売却しないと「売却すれば得られたはずの利益分」だけ損をすることになります。売らないという自らの意思決定によって損はしたくないため、売却してしまいます。

 

これは、「利益を確定したい」という気持ちよりも、「損を出したくない」という心理が強いということです。

 

心理的バイアスを認識する

 

日本には「損して得とれ」「負けるが勝ち」ということわざもあります。しかし、人間の意思決定はそれほど合理的には行われていないということが分かります。

 

それでは、どうすればよいのでしょうか。

 

まずは、投資意思決定にはこのような心理的バイアスがあるということを認識することです。また、投資の目的を明確にし、投資スタンスを決めておきます。

 

心理的バイアスによって損失回避を優先しそうなときには、当初の目的に立ち戻って、冷静な投資判断が行えるようにするのも効果的でしょう。

 

さらに、情報の選択も重要なポイントです。ネット上では株式投資に関連した膨大な情報が日々増え続けています。膨大な情報量のなかから、本当に価値のある情報を見つけ出す労力と能力のある人はごくわずかです。

 

そのため、まずは企業が直接提供している「統合報告書」などの情報にアクセスし、ネット上にある根拠のない情報に惑わされないようにする必要があります。

 

また、企業側も投資家が他の情報にまどわされないように、より確度の高い情報を提供し、投資家との信頼関係を構築することが大切です。