「戦略」を理解して財務分析に役立てるための視点

戦略とは?

 

投資家が企業の財務的な数値を分析する際、まず理解しなければならないのは、企業の「戦略」です。しかし、「戦略」という言葉から想像するイメージや定義は人によってさまざまです。

 

「戦略とは、『戦いを略す』ことである」、という言葉を聞いたことのある方もいるのではないでしょうか?この言葉の出所は、いくつかあるといわれているため不明です。しかし、これは、「何をするか」ということではなく、「何をしない(=略す)か」ということに目を向けさせてくれるという意味で非常に興味深い言葉です。

 

経営戦略論の大家である、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授も「戦略の本質は何をやらずにおくべきか、ということだ」と述べています。企業の経営資源は無限ではないため、「何をやらずにおくべきか」を決定することが重要となります。

 

ここで「戦略」とは、「ターゲット顧客はどこ(Where)の誰か(Who)」「提供する価値は何か(What)」「企業の経営資源をどこにどのくらい配分するか(How much)」の3つの要素を使い、それらの「つながり」を経営者が自らの言葉で語ることとして、捉えて考えます。

 

ターゲット顧客はどこ(Where)の誰か(Who)

 

ターゲット顧客がどこ(Where)の誰(Who)かは、企業の事業ドメインを確認します。事業ドメインの確認は、「必要な経営資源」を明らかにするための最初のステップです。

 

「ドメイン」とは、「住所」という意味です。戦略を理解する際には、まずは、住所である「事業を行う領域」とその住人である「顧客」を確認します。

 

例えば、「富裕層向け高級車販売事業」「30代・40代女性向け化粧品販売事業」「高齢者向け介護サービス事業」などです。

 

提供する価値は何か(What)

 

次に、事業ドメインにおいて、企業が提供する価値は何か(What)を確認します。これは、「必要な経営資源」を明らかにするための2番目のステップです。

 

企業が提供している商品やサービスは、価値そのものではありません。顧客にとって価値とは、商品やサービスを提供したその先にある「満足感」「期待感」「安心感」「快感」「モチベーション」といった、見えない「プラスの感情」です。

 

例えば、車は、移動の手段としてだけでなく、「速さ」による「快感」を求めてスポーツカーを購入する人もいるでしょう。また、家族との時間と空間の共有による「安心感」や「楽しさ」を得るために、ファミリーカーを購入する人もいます。

 

「企業が提供している価値は何か」を確認したら、その価値を提供するにあたり、他社にはない独自の「技術力」「商品開発力」「課題発見力」「ブランドイメージ」「ネットワーク」「品質」などの「強み」または「差別化要因」を見極めます。

 

企業の経営資源をどこにどのくらい配分するか(How much)

 

「必要な経営資源」を明らかにするためのステップ1「ターゲット顧客はどこ(Where)の誰か(Who)」と、ステップ2「提供する価値は何か(What)」をとらえたら、次に、経営資源をどこにどのくらい配分するか(How much)を確認します。

 

経営資源は限られており、どこに経営資源を最適に配分するかの判断が経営者の能力といっても過言ではありません。これを「最適な資本配分」といいます。資本配分の内容については、「投資内容」を確認します。

 

例えば、「技術力強化のために優秀な人材の採用や研究や開発のために売上の5%を研究開発投資に充てる」「品質を維持・向上しながらも生産性を高めるために100億円の設備投資を行う」など、具体的な数値も合わせて確認します。

 

これにより、経営者が価値を提供する上で何を重要と捉え優先的に投資を行っているかを知ることで、適切な資本配分の根拠を理解することができます。「重要なことに絞り優先順位を付けること」は、「何をしないかを決めること」でもあります。

 

以上の3つのポイントを軸に、戦略を読みときます。そして、経営者の頭の中に描かれている未来像を理解してみてください。

 

資本配分の結果は、最終的には財務的な売上高や利益という数値になって表れてきます。ただし、数値となって表れてくるまでには時間的ギャップが生じるため、企業の戦略が何年のスパンで語られているかもチェックします。

 

このように、戦略の本質を理解することで、長期的な視点で企業を分析することができるようになります。このことは、投資家にとって意味のある財務分析を行う上で、大切な視点です。
戦略と財務結果のつながりを理解して初めて、意味のある財務分析を行うことができます。