投資家の栄養不足(価値のある情報不足)で起こる症状と対策

通常、人がビタミン・ミネラル・タンパク質などの栄養が不足すると、「貧血」「めまい」「体のしびれ」「肌荒れ」「口内炎」など、まさしく身をもってSOSを発してくれるものです。

 

一方、投資家が栄養不足(価値のある情報不足)に陥ると、「短期志向」「利益至上主義」という症状として現れてきます。これは、多くの場合、投資家自身に自覚症状がなく、早期発見が難しい分野です。

 

投資家の栄養不足がもたらす課題とその原因、そして対策について考えていきましょう。

 

課題:短期志向

 

投資家の栄養不足の症状が表面化したのは、2009年に起きた世界的な金融危機(通称、リーマンショック)です。 金融危機以降の株価暴落は、投資家の短期志向が一つの原因であったとされています。短期志向とは、短期的な成果を重視する動機づけが働いていることです。

 

世界的にみて、投資家には短期志向的な面が存在すると指摘されています。短期志向とは、単に株式の保有期間が短いというだけではありません。企業の短期の業績(主に財務的な業績)に目を向けて投資判断を行うことです。

 

企業の価値は、財務的な業績だけで評価できるものではありません。財務的な売上や利益などの情報が企業価値全体に占める割合は、2割程度であるとも言われています。そのような極めて限定的な情報に基づいて企業価値評価を行うと、企業側がいくら情報を発信をしていても、投資家は重要な情報の栄養素を受け取ることができません。

 

原因:おいしいところだけ(利益)を食べたいという欲求

 

人は、主に食べ物から栄養を摂取し、健康意識の高い方であれば必要に応じてサプリメントなど補助的に取り入れている人もいるでしょう。栄養不足に陥る人の共通点は、「おいしいものだけ食べる」「たべたいものだけ食べている」などの偏った食事です。

 

ただし、野菜や果物を摂れば良い、というわけではありません。例えば、みかんやりんごなどは甘い実の部分よりも、苦みを感じる皮に非常に高い栄養素が含まれているといわれています。

 

栄養のある情報が不足しがちな投資家は、甘くておいしい実の部分だけを食べ、食べるのに邪魔で、なおかつ苦い皮はナイフで削って摂取しようとしません。つまり、利益の情報(おいしいところ)だけを入手し、その利益を生み出す価値の源泉(咀嚼しにくいが栄養のあるところ)については、目を向けようとしない傾向にあります。

 

外部から見れば一見無駄に見えるようなことでも、実は企業の長期の価値創造においては重要性の高い情報が財務情報以外の企業の情報には含まれている可能性があるのです。

 

対策:丸ごと食べる「一物全体」思考で投資家の栄養不足を解消する

 

食事の際に、「皮をむかずに食べる」「小さい魚を丸ごと食べる」ことを、「一物全体(いちぶつぜんたい)」と言います。丸ごと全体をとることによって、バランスの取れた栄養を摂取することができ、人の体にとって望ましいとされています。

 

企業の情報を受け取る際にも、同様の事が言えます。企業価値の一部である、財務情報だけを活用するのではなく、企業の価値創造の全体像をまるごと評価できるようになることが大切です。それにより、投資家も健全な企業であるかどうかの評価を適切に行うことができるようになります。

 

企業の価値創造の全体像を把握するためには、財務情報の他に非財務情報と呼ばれる情報に目を向けることがポイントとなります。非財務情報には、財務情報では把握することのできない企業の活動が記載されています。例えば、「ビジョン」「戦略」「ビジネスモデル」「無形資産」など、企業の価値を創造する源泉となる情報です。

 

財務情報と非財務情報には必ずつながり(結合性)があります。そのため、投資家は財務情報と非財務情報を別々に評価すると企業の価値創造の全体像や将来像が見えにくくなります。

 

非財務情報を入手し分析することは「時間が掛かる」「面倒くさい」「価値が無い」とするのではなく、財務情報とあわせて取り込むことで、企業の将来を適切に理解し予測することが可能となるのです。

 

企業情報を包括的に捉えるためのツールに、「統合報告書」があります。統合報告書では、企業が自ら長期の価値創造において重要な影響を及ぼす事項を選択すること(重要事項の決定)が望ましいとされています。

 

投資家は、単に過去の結果である財務的な数値だけでなく、経営者が長期の価値創造においてどのようなことを重視しているのかについて着目し、将来の財務数値へのインパクトを評価する必要があります。

 

以上のように、企業の情報は財務だけでなく非財務情報と合わせてとらえ、企業をまるごと評価する視点が大切です。ただし注意しておきたいのは、非財務情報においては、記述による説明が多くなるという点です。記述による説明は数値のような客観的な情報ではないため、その「確からしさ」に欠ける部分も生じるという点です。

 

その際には、例えば「顧客満足度」などの非財務情報に対する定量化された情報(非財務KPI)の有無を確認します。非財務KPIをサプリメントとして記述情報と合わせて取り入れることで、バランスのとれた企業価値評価につなげていきましょう。