企業価値を見極めるツール「国際統合報告フレームワーク」の活用

企業の実態は、過去の実績である売上や利益といった財務的な情報だけでは把握することが困難です。そのため、企業の「将来ビジョン」「戦略」「ビジネスモデル」といった情報を組み合わせて、包括的に企業の価値創造について捉えることが大切です。

 

企業の価値創造についての全体像についての情報は、企業から発行されている「統合報告書」を読むと良いでしょう。統合報告書とは、企業の過去・現在・未来において、「企業がどのような価値をどのように創造するか」をストーリーとして理解することのできる媒体です。

 

この統合報告書は、法律で定められた義務的な開示資料ではありません。企業にとって、重要なビジネス上のパートナーである投資家・株主をはじめとする利害関係者(=ステークホルダー)に向けて有益な情報を提供し、長期の信頼関係を構築するためのツールの一つです。

 

統合報告書を作成するための基本的な考え方や開示することが望まれている内容を示す枠組みとして、国際統合報告評議会(International Integrated Reporting Council,以下「IIRC」)という組織より、「国際統合報告フレームワーク」(以下「フレームワーク」)が公表されています。

 

企業は、このフレームワークに記載されていることを全て開示する必要はありません。ただし、フレームワークでは、企業の価値創造について効果的に伝達するための考え方や方法が記載されているため、活用して行きましょう。

 

今回は、このフレームワークの構成概要と統合報告書の定義についてみていくことにします。

 

国際統合報告フレームワークにおける4つの主なセクション

 

統合報告のフレームワークは、国際統合報告評議会(IIRC)のウェブサイトより、オリジナルである英語版の他、日本語訳を誰でもダウンロードすることができます。

 

このフレームワークは、下図に示した通り、4つの主なセクション「フレームワークの活用」「基礎概念」「指導原則」「内容要素」から構成されています。

 

 

ここでは、「フレームワークの活用」の中に記載されている「統合報告書の定義」に焦点を絞って内容を見ていくことにしましょう。

 

統合報告書とは(定義)

 

フレームワークにおける最初のセクション「フレームワークの活用」では、「統合報告書の定義」「フレームワークの目的」「統合報告書の目的と利用者」「原則ベースのアプローチ」「報告書の形式及び他の情報との関係性」「フレームワークの適用」「統合報告書に対する責任」についての記載があります。

 

この部分の記載で最も重要なポイントは、統合報告書を作成するにあたり、「統合報告書はなにか」をまずは理解し、社内で共通の認識を持つことです。社内での共通の認識が持てていないと、最終的な成果物のイメージにバラつきが出ます。統合報告書に対する共通認識ができていないと、時間や労力を浪費する可能性が高くなるので注意が必要です。

 

フレームワークでは、統合報告書を以下のように定義しています。

統合報告書とは、「外部環境の影響を踏まえ、どのように組織の「戦略」「ガバナンス」「パフォーマンス(実績)」「見通し」が短期・中期・長期における価値創造をもたらすか」について説明する簡潔なコミュニケーションである。

この定義をどう捉えているか作成に関わる人同士で共有し、最初に共通の認識をもっているかどうか、確認しましょう。

 

押さえておきたい3つのポイント

 

統合報告書を作成する際に押さえておきたいポイントは3つあります。最初に、「外部環境の影響を踏まえる」という点です。統合報告書では、内部環境だけを説明するのではなく、これまでより広い外部からの影響も加味して企業の事業環境をとらえて説明します。

 

2つ目のポイントは、組織の「戦略」「ガバナンス」「パフォーマンス(実績)」「見通し」といった「非財務情報」を説明する点です。従来、企業が開示してきた情報は、売上や利益といった短期の財務的な結果が中心でした。統合報告書では、財務情報だけでは把握できない非財務情報についても合わせて開示を行っていきます。

 

3つ目のポイントは、対象となる時間軸が短期・中期・長期であるという点です。企業は継続して事業を行うことを前提に、ビジネスが成り立っています。そのため、短期の業績だけでなく、中・長期のビジョンやその根拠を示していくことが求められています。

 

以上、統合報告書とは何であるかを理解するには、「外部環境を踏まえる」「非財務情報も含める」「短期・中期・長期の時間軸で捉える」といった3つのポイントがあります。国際統合報告フレームワークを活用し、統合報告についての理解や社内における認識のすり合わせに活用しましょう。