統合報告へシフトする際に、社内の理解と協力を得るためには?

「変化」への抵抗

 

「変化に最も対応できる生き物が生き残る」というダーウィンの言葉があります。

 

今、企業の情報開示の世界でも変化が起きています。従来は、売上や利益など過去の情報が大半を占める「財務報告」がメインでした。現在は、過去・現在・未来における企業の価値創造の全体像を示すことを目的とする「統合報告」が世界のトレンドです。

 

従来型の開示から統合報告へシフトすることは、「変化」が必要となります。しかし、業種や規模の大小に関係なく、多くの企業において、この変化に必要な「社内の理解と協力を得る」という「最初の一歩」でつまずいていることが多いです。

 

ある研究では、あらゆる組織における変化への努力の70%は、この「社内の理解と協力を得る」ことができないがために失敗するという結果もでています。つまり、この一歩が非常に重要であることが分かります。

 

統合報告に限らず、組織の中にいて、なにか大きな変化を促すことはとても大変です。なぜなら、人の脳は「変化に抵抗する」からです。「これまでのやり方を変えるということは、これまで費やしてきた時間や労力が無駄になること」と捉え、「損をした気持ち」になります。

 

心理的作用として、人はさまざまな場面で損失を避けようとします。損失を回避することは、脳の欲求です。これが、ビジネスの場面に限らず、日常的な意思決定にも大きく影響を与えています。この心理学的作用は、「プロスペクト理論」として知られています。

 

変化は、ストレスです。そのストレスをうまくコントロールして、新たな取り組みである「統合報告」について、社内の理解と協力を得るためにはどうしたらよいでしょうか。4つの感情の変化に着目して考えてみましょう。

 

「社内の人の理解と協力」=”Buy-in”

 

組織の中で本質的な変化を起こそうとするとき必要不可欠な「社内の人の理解と協力」は、英語で”Buy-in(
バイ・イン)”と言います。

 

“Buy”という単語が入っていることからもわかるように、「買う」という意味が含まれています。「社内の人の理解と協力」を得るには、「協力を自らの意思で行ってもらう(=買ってもらう)」ことが重要なのです。

 

例えば、何かを買う(Buy)ことを決心させるために、商売上手な企業であれば、押し売り(Sell)するのではなく、あたかも自らの意思で買いたいと思わせるようなマーケティングを行っています。

 

同じように、「社内の人の理解と協力」は、押し付けではなく、各人があたかも自らの意思で「協力したい」「変化する必要がある」と思わせることが大切です。そのために下記の4ステップと「不満感」「参加感」「一体感」「安心感」という感情で”Buy in”を行ってみてください。

 

①問題を提示するまず、統合報告を行わない場合に生じる問題を洗い出します。問題を提示されると、現状への「不満感」が生じます。「統合報告へシフトしないことは損である」というストレスにより、「損」を回避する方へ脳が働きます。

 

②社内の人から批判・悩みを受け入れる
統合報告を行わないことのデメリットを提示しても、「変化」に対する抵抗が強い人や不安な人はたくさんいます。そのような抵抗や不安を一旦頭から取り出すために、十分に時間をとって意見を出してもらいます。批判的な意見でも、積極的に共有してもらいます。そうすることで、統合報告のプロセスへの「参加感」を与えることができます。

 

③意見を統合し、解決案を共有する
プラスの意見もマイナスの意見も十分に検討したうえで、解決案を提示します。特に批判的な意見についても、何らかの形で反映されていれば、自分は統合報告プロセスの一部であるという感覚が生じ、「一体感」を与えることができます。

 

④フィードバックの場を設け、継続的にコミュニケーションを行う
解決案については、再度、率直に意見やアイディアを出してもらえる継続的な仕組みづくりが必要です。メールなどで済ませず、時間と空間を確保して、対面式でフィードバックを受けることが効果的です。

 

成果物である「統合報告書」だけを見せるのは、効果的ではありません。作成の過程において、何度かフィードバックの機会を設けて継続的にコミュニケーションをはかることで、「安心感」を与えます。

 

以上のようなプロセスを参考に、「社内の人の理解と協力」を得られるように、自社にあったやり方を見つけ工夫してみてください。”Buy-in” により、「変化」への抵抗感がなくなり、「進化」することができるようになります。

 

「上司に言われてやっている」「他社がやっているのでやっている」といったように、「押し売り」されてやっている方は、やはり社内でも押し売りスタイルをとるため悪循環を生み出し、継続的な取り組みに繋がっていきません。本質的な変化を起こすのであれば、”Buy-in”が必要であることを再認識しましょう。