社内における理解の共有:「参加感」

統合報告書を作成しようと検討されているIR部やCSR部のご担当者の方、また、すでに統合報告書を作成されている組織の方は、様々な情報収集をされています。 特に、国際統合報告フレームワーク(以下、「フレームワーク」)については目を通されている方も多く、社外のセミナーに参加されたり、社内で勉強会を開いている組織もあります。

 

その中でも特に社内で勉強会を開いたり、報告会のような形で統合報告書のプロセスを共有することは、継続的に企業の開示を改善していく上で不可欠です。

 

ここには「参加感」というキーワードが当てはまるでしょう。

 

統合報告書はその名の通り、様々な情報を統合して作成されるため、様々な部署の協力が必要となります。単に統合報告書の作成担当部署から一方的な指示で情報を出してもらうのではなく、社内関係者の「参加感」を醸成し、主体的に協力してくれる「場づくり」が必要です。

 

参加感は「当事者意識」を生み、開示されている情報に対する責任と、継続的な改善のための意欲を高めることができます。逆に、参加感を感じられない場合は、情報を出すことへの激しい抵抗感を生み、部署間の対立を招いたり、情報のサイロ化(=断片化)が再び生じる可能性もあります。

 

本来、統合報告のプロセスは、社内の様々な部署間を「つなげる」ことも一つの目的です。それにもかかわらず、統合報告の本質的な理解が共有されていないと、「厄介なもの」「ムダな時間」と思われてしまいかねません。

 

統合報告の本質的な理解を進めるためには、勉強会などでフレームワークを是非活用していただきたいと思います。フレームワークで使われている用語を自社の言葉に置き換えてみる、翻訳してみるといったことも理解を共有する上で役に立ちます。

 

例えば、フレームワークでは「様々な資本」という概念がありますが、自社の経営資源でいうなら「知的資本」や「人的資本」、「社会・関係資本」とは一体何なのかを当てはめたり、議論するのもいいでしょう。

 

統合報告の全てのプロセスを担当部署以外の方と共有する必要はもちろんなく、その代りに、途中経過の報告会を開くなど、定期的・継続的な「参加感」の醸成の工夫も重要です。

 

その際、一方的な報告会ではなく、統合報告書の改善のためのフィードバックを促してみてください。集められたフィードバックをどのように改善のために活かしたかについても、また社内の報告会等でインタラクティブに共有すると効果的でしょう。

 

それぞれの業務で忙しいと、同じ組織のビルにいてもメールベースでのやり取りが効率的であると思われることもありますが、やはり空間を共有することはとても大切です。

 

まずは、報告書作成担当部署以外の方に、勉強会や報告会へのボランタリーな参加を呼びかけてみてはいかがでしょうか。統合報告の改善のヒントは、フレームワークの中にあるのではなく、組織にとって重要なステークホルダーである従業員が持っていることが多いのです。

 

“The answer lies within your company.”

答えは会社の中にある             -カルロス・ゴーン

 

最初はごく少数の方を招いて勉強会や報告会を行ってみると良いと思います。統合報告のメリット、本質が理解されれば、徐々に社内に広がって、興味関心を持ってくれる方も増えるでしょう。

 

そうすれば、統合報告が単に企業の情報開示のためのプロセスではなく、A)自社の長期の価値創造プロセスであること、またB)各人がその価値創造プロセスに深く関わりがあること、C)業務以外にも応用することができること、といったことを理解することができ、各従業員のモチベーションアップにも繋がります。