国際的な企業情報開示のトレンドの生みの親:国際統合報告評議会

企業が継続して事業を行うために、長期的な価値を創造していく能力を高めていくことが必要不可欠となっています。企業の過去の財務的な業績だけでなく、未来に向けた価値創造の実態を知るための情報の一つに、「統合報告書」というものがあります。

統合報告書とは、「企業が過去から現在までにどのような価値を生み出したのか」「将来にわたって価値を創造する能力があるのか」を知る手がかりとなる媒体です。組織の規模の大小にかかわらず、企業の価値を伝達することは重要です。

統合報告書は、「作る」ことが目的ではありません。統合報告書は、企業がステークホルダー(=利害関係者)との双方向コミュニケーションを行うための手段として活用されることが目的です。

企業が統合報告書を作成するには、作成するための思考や検討すべき開示内容について書かれた「国際統合報告フレームワーク」を活用します。この国際統合報告フレームワークは、国際統合報告評議会(International Integrated Reporting Council:以下「IIRC」)という組織から公表されています。

国際統合報告評議会(IIRC)がどのような組織であるかを理解し、国際統合報告フレームワークがどのようにして作られたのか、また、今後の動向について見ていくことにしましょう。

国際統合報告評議会(IIRC)とは

国際統合報告評議会(IIRC)は、2010年10月に「企業の情報開示について国際的な枠組みを開発すること」を目的に設立された組織です。

国際統合報告評議会(IIRC)がスタートする以前にも、「企業がどのように情報を開示すればよいのか」についての枠組みは開発され公表されてきました。

すでに数多くの企業情報の開示に関する枠組みが存在する中で、なぜIIRCは設立されたのでしょうか?

国際統合報告評議会(IIRC)の設立の経緯

国際統合報告協議会(IIRC)は、英国のチャールズ皇太子が立ち上げたプロジェクト組織である「Accounting for Sustainability(A4S)」と、「企業の環境や社会に対する取組を開示するための枠組み」を先駆的に開発している組織である「Global Reporting Initiative(GRI)」という2つの組織を共同事務局として発足されました。

この2つの組織に共通するのは、企業の経済的な活動が、環境問題や人権などの社会的課題といった「持続可能性に関連する課題」に与える影響について、調査研究をしている点です。

A4Sでは、企業が「持続可能性に関連する課題」について、企業が日々の業務の意志決定に組み込み、会計情報とのつながりを示すことに重点を置いています。

GRIは、組織の「経済」「環境」「社会」に関連する活動についてパフォーマンスを測定し、報告するための考え方や指標といった枠組みを提供しています。

国際統合報告評議会(IIRC)の組織の特徴として着目すべき点の一つは、「国際的な組織に対する影響力の高さ」です。

例えば、国際統合報告評議会(IIRC)の評議会メンバーには、「国際会計基準審議会(IASB)」「国際コーポレートガバナンスネットワーク(ICGN)」「証券監督者国際機構(IOSCO)」「日本証券取引所」「マイクロソフト」「ネスレ」「世界銀行」「世界経済フォーラム(WEF)」「4大監査法人」「ハーバード大学」など約70の組織があります。

これは、発足メンバーであるA4Sが、チャールズ皇太子が立ち上げたプロジェクトであるということも大きく影響しています。チャールズ皇太子の影響力もあり、国際統合報告評議会(IIRC)の主要構成メンバーも、 世界的に影響力の高い組織のトップ、もしくはトップに限りなく近いポジションの方が関与しています。

「国際統合報告フレームワーク」開発の方法(2010年~2013年)

国際統合報告評議会(IIRC)では、2010年の設立当初より、「国際的な開示のフレームワークの開発」を最大の目的として活動していました。国際統合報告評議会(IIRC)では、このフレームワークのことを「プロダクト(製品)」と呼んで開発してきました。

「製品」である国際統合報告フレームワーク(以下、「フレームワーク」)が完成し、公表されたのは、2013年12月9日です。最終的にフレームワークとして公表される前に、さまざまな立場の組織の意見を広く取り入れる「コンサルテーション」を2回実施し、最終版に反映させています。

また、フレームワークを開発するプロセスとして、企業が国際統合報告評議会(IIRC)の開発途中のフレームワークを試験的に使って開示してみる「パイロットプログラム」も実施されました。

パイロットプログラム企業には、HSBC、ユニリーバ、ドイツ銀行、中華電力、タタ・スティールの他、日本からも武田薬品工業、フロイント産業、昭和電機(中小企業)といった事業会社が約30社参加しています。

パイロットプログラムにおいては、企業が統合報告書を作成するだけでなく、読み手としてのターゲットとなる投資家からも意見を積極的に取り入れる機会が多く作られました。

フレームワーク公表後(2014~現在)の動き

フレームワーク公表後は、世界中でフレームワークの公表イベントが開催されました。国際統合報告評議会(IIRC)という組織の影響力もあり、世界の多くの上場企業の新たなグローバルトレンドとして「統合報告」が認知されるようになりました。

また、国際統合報告フレームワークをもとに実際に開示を行っている企業の事例をあつめた「IR Examples Database」をウェブ上で構築し、公開しています。同じ枠組みの中で、独自性をアピールする点は、海外企業の方が積極的に取り組んでいるため、日本企業の参考となります。

国際統合報告フレームワークが公表された今は、企業が投資家と統合報告書をツールに対話することを促進するためのプロジェクトである「Corporate Reporting Dialogue」に力を入れています。

以上、現在企業の情報開示の国際的なトレンドである「統合報告書」の生みの親である国際統合報告評議会(IIRC)の成り立ちや取り組みについて確認しました。

企業の情報開示は、投資家の企業価値評価を左右する重要な材料です。今後も企業の情報開示において、大きな影響を与えてくると考えられる国際統合報告評議会(IIRC)の動向について、継続的に注視していきましょう。