国際的な企業開示トレンドをリードする国際統合報告評議会の目的

企業は社会的責任を果たす上でも情報開示が必要

現在、企業は、自社の経済的な発展のみならず、「環境や社会の持続的な発展に寄与する経済活動であるか」を確かめながら事業を行っていくことが求められています。

「持続可能性」という言葉は、さまざまな媒体で目にすることが多くなりました。企業としての「持続可能性」と、環境や社会における「持続可能性」は、相互に関連しあっています。

そのため、「環境や社会の発展」を犠牲にした事業活動を行う企業は、企業としての持続可能性にダメージを与えていることを認識する必要があります。

企業が「環境や社会の発展」を前提として、事業活動を行っているかどうかを知るための手がかりの一つに、「統合報告書」があります。これは、企業が開示している情報の一つです。

統合報告書は、国際統合報告評議会(International Integrated Reporting Council, 略してIIRC)という組織が公表している「国際統合報告フレームワーク」という「開示のための枠組み」をベースに作成されている報告書です。この「統合報告書」は、企業報告の国際的なトレンドになりつつあり、日本でも約200社近くが開示しています。

「国際統合報告評議会(IIRC)は、なぜ国際統合報告フレームワークを開発したのか」、その目的について以下で探っていくことにしましょう。

国際統合報告評議会(IIRC)の達成したい目的とは

国際統合報告評議会(IIRC)では、国際統合報告フレームワ―クを2013年12月に公表しました。現在は、「1)国際統合報告フレームワークの普及」「2)統合報告書をベースとする投資家や主要なステークホルダー(利害関係者)との対話の向上を啓蒙するための活動」を行っています。

国際統合報告評議会(IIRC)は、上記1)と2)の活動を通じて、「金融安定化」(financial stability)と「持続可能性」(sustainability)の両立を目指しています。

ここでいう「金融安定化」や「持続可能性」とは、一体何を指すのでしょうか。

「金融安定化」と「持続可能性」の両立

国際統合評議会(IIRC)のボードメンバーであり、元証券監督者国際機構(IOSCO)の議長でもあるジェーン・ディプロック(Jane Diplock)氏のスピーチによると、「金融安定化」という概念は、「グローバルな金融システムの持続可能性」として捉えていることが分かります。

また、「持続可能性」については、「地球の持続可能性(=sustainability of planet)」 という言葉を使用しています。つまり、企業の活動の範囲を超えて、経済・社会・環境といった総合的な発展を指していることが分かります。

また、「金融安定化と持続可能性は両方を同時に取り組まない限り実現することはない」とも述べています。世界的な規模で、金融安定化と持続可能性が「両立」して初めて、意味があるということが強調されました。

短期主義の是正がカギ

このような考え方の背景には、「2008年の金融危機(通称、リーマンショック)」「温暖化などの気候変動」「世界の資源の枯渇の増加などによる環境悪化」といった世界が現在直面している大きな問題が影響しています。これらの問題に共通しているのは、「短期主義」という考え方です。

短期主義とは、企業であれば「目先の利益」、投資家であれば「目先の株価・配当の上昇」にとらわれることを意味します。企業や投資家が短期主義に陥った理由の一つに、企業の情報開示のスタイルが、過去情報である財務情報を中心としたものであることが指摘されています。

つまり、国際統合報告評議会(IIRC)の目指す、「金融安定化と持続可能性の両立」のためには、企業と投資家における加速した「短期主義」の流れを軌道修正する必要があります。

その一つの方法として、国際統合報告評議会(IIRC)より、企業の短期的な利益だけでなく、企業の長期の価値創造に光を当てた情報開示の新たなスタイルとして「統合報告」が提唱されることになったのです。

以上、企業情報の開示のトレンドとして広まりつつある統合報告の生みの親である国際統合報告評議会(IIRC)の根底にある目的意識は、「金融安定化と持続可能性の両立」であることが分かりました。

これまで、一企業が意識してきたことよりも、より広範で長期的な課題を検討することが求められています。このことを理解しながら、効果的な情報開示に取り組んでいきましょう。