企業にとって最も重要なステークホルダーを特定する理由と方法

企業が開示している情報の一つに、「統合報告書」があります。統合報告書とは、企業の「長期の価値創造」について、「一つのつながりのあるストーリー」として分かりやすく伝達するための媒体です。

 

統合報告書では、企業がどのステークホルダー(利害関係者)との関係性を最も重視しているかを開示することが求められています。

 

  • 最も重要なステークホルダーとの関係性に絞り込むことの意味

 

統合報告書が求められる2010年以前においても、「企業を取り巻くステークホルダーは誰か」について、部分的に知ることができました。

 

例えば、財務情報が中心となる「有価証券報告書」では、「株主の状況」「役員の状況」「主要な関係会社」等については把握することができます。

 

ただし、これらの情報は、基本的に「財務に与える金額の重大性」という観点から選択されているという点で、統合報告書で求められている重要なステークホルダーを十分にカバーしていません。

 

また、「企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)」の観点から、多くの企業において「サステナビリティ報告書」「CSR報告書」という報告書も発行されています。

 

これらの報告書では、企業の持続可能性の観点から、「従業員」「投資家」「顧客」「サプライヤー」「地域社会」「NGO」「政府」など、多種多様なステークホルダーが特定されました。

 

ただし、CSR関連の情報は、「社会や環境に関連する課題」に焦点があてられることが多く、それが企業の「売上」「利益」「キャッシュ」といった財務へインパクトがあるのかについては、不明瞭でした。そのため、投資家からは、十分に活用されず、実態として、投資家のニーズに応えることができませんでした。

 

企業の限られた経営資源の範囲で、「全ての人のニーズを満たす」、または、「不満を解消する」ということは不可能です。 そのため、統合報告書では、企業の長期の価値創造において、最も重要なステークホルダーとの関係に焦点を合わせる必要があります。

 

  • どのようにして重要なステークホルダーを特定するか

 

では、どのようにして「企業の最も重要なステークホルダーを特定」すればよいのでしょうか。これについては、統合報告書を作成する企業の担当者の多くが悩まれています。

 

企業の長期の価値創造という観点から、重要な事項について、俯瞰して広く捉えることが重要です。その上で、最も重要な事項をできる限り絞り込んでいく作業が必要となります。

 

「重要な項目として絞り込めるかどうか」は、経営者の経営能力の違いでもあります。言い換えれば、「どのステークホルダーとの関係性を最も重視するか」ということが、企業の評価にもつながります。

 

重要なステークホルダーを特定するために、下記の3つの質問に答えてみてください。

 

Q1) 企業が創造する「価値」とは何か?

 

企業が創造している「価値」とは、企業によって異なります。企業の存在意義、ビジョン、理念などを確認し、「自社にとっての価値とは何か」を定義します。その上で、企業の価値創造という目的を達成するための戦略やビジネスモデルを明確にします。

 

Q2) 企業が長期にわたり価値創造を行っていく上で、ポジティブまたはネガティブな影響を与える事項は何か?

 

ビジョンや理念の基づく戦略を立案する際には、「企業の外部環境の変化」「市場動向」「技術革新のスピードや影響」「環境・社会課題」「規制環境」など、どのようなリスク(ポジティブ及びネガティブ)があるのかを洗い出します。リスクマネジメント部があれば、部の担当者と連携して、情報を共有してください。

 

Q3) 戦略及びリスクに関連の高いステークホルダーは誰か?

 

コントロールすべきステークホルダーや、これからも長期にわたり関係性を維持し、さらには発展させたいステークホルダーは誰かを、戦略とリスクに紐づけながら特定します。

 

「モレがないか」を気にするあまり、さまざまなステークホルダーが重要に見えてきてしまうので注意が必要です。ポイントは、企業の理念、ビジョン、戦略、リスクに紐づくステークホルダーであるかどうかを確認することです。特定されたステークホルダーとは、対話の場を定期的に設けます。

 

まずは、上記のような質問に答えることで、現時点で経営者が最も重視しているステークホルダーとの関係性はどれかを把握しましょう。