収益性を測るROE(株主資本利益率)の背後にあるストーリー

ROEとは

 

ROE(株主資本利益率)とは、「企業がどのくらいのお金を使って、どのくらい利益を生みだしたか」といった稼ぐ力や収益性を測るものさしです。このROEは、多くの投資家が最も重視している投資指標です。

 

ROEは以下の計算式で算出されます。

 

ROE=1株あたりの利益÷1株あたりの株主資本

 

このROEは、どのくらいの水準であれば平均的に良いと判断されるのでしょうか? 国内外の平均値を勘案すると、最低8%を超える水準を意識すべきであると言われています。

 

もちろんこれは平均的な一つの参考値であり、会社の置かれた状況によって変化するため、すべての企業にあてはまるわけではありません。

 

ROEを取り巻く課題

 

ROEは収益性を測る指標ですが、言い換えると、どのくらい投資家が出資した資金かを表す「株主資本」がどのくらい効率的に使われているかを確かめるための指標でもあります。

 

日本企業は、欧米企業に比べて特に資本の効率性が低いとされています。投資家からの資本の効率化を求める声に応えるために、日本企業の多くは中期経営計画などでROEの数値を開示してきました。このROEの開示に関しては、企業と投資家の両サイドにいくつかの問題があります。

 

企業サイドの問題には、「形式的にROEを開示している」「納得できる説明が不十分である」といったことが挙げられます。

 

また、投資家サイドとしても、「毎期ごとにROEの達成度を企業に求める」「短期的な収益性を評価する」といった問題点が挙げられます。

 

投資家サイドが短期の収益性ばかりを企業に求めると、企業の経営者は「毎期ROEを上昇させなければならない」といった短期志向に陥り、その結果としてROEが悪化していくといった悪循環を生み出してしまいかねません。

 

このような悪循環に企業と投資家の双方が陥らないために、投資家サイドでは、ROEに限らずあらゆる数値の見方を変えていく必要があります。

 

数値の背後にあるストーリー

 

悪循環に陥らない対策の一つには、数値を「点」で捉えないことです。あらゆる数値にいえることですが、ある時点の単独の数値に意味を与えることは不可能です。例えば、先に挙げた「ROE8%」という数値を見たときに、それが良いのか悪いのか分からないことからも単独の数値に意味がないということは明らかです。

 

また、「前期比」や「前年同月比」といった、点と点の比較も同じことがいえます。つまり、部分的な比較も意味がありません。点と点の比較をすると、たまたま前期の数値が悪かった場合などでは、今期の数値が良く見えることがあります。

 

点と点の比較からは、全体的な時系列のパフォーマンスの動きを把握することが困難です。そして、全体のトレンドを見た場合、異なるストーリーが見えてくる場合があります。

 

数値は時系列の動きの中で変動します。変動には、「正常な数値の変動」であるノイズと、「異常な数値の変動」であるシグナルがあります。

 

時系列のパフォーマンスの動きの中には、必ずノイズが含まれていますが、点と点の比較からはノイズを把握することも難しくなります。

 

ノイズが含まれているという前提を無視して分析を行うと、通常起こりうる数値の変動であるノイズを、大きな実質的な変化であるシグナルとして捉えてしまう場合があります。またその逆に、シグナルをノイズとして捉えたりして、本当の変化を見落としてしまう可能性もあります。

 

例えば、ダイエットをしている人が日々の体重の変動に一喜一憂している場合は、ノイズに翻弄されています。日々、数値が変動するのは当たり前だからです。

 

これは、先に挙げたように企業が前期と当期を比較して、数値の変動に常に反応し、さまざまな対策を取ってしまうことと同じです。ノイズに対しては、何らかのアクションを取る必要はありません。

 

一方、何らかの対策をとるべきタイミングとは、パフォーマンスの動きの中で「実質的な変化が起きていることを示すシグナル」が発生したときです。

 

たとえば、55キロだった人が「50キロをプラスマイナス0.5キロの変動幅で7か月間体重をキープ」していたら、実質的な変化があったといっていいでしょう。このとき初めて、何らかのアクションをとるかどうかを検討するタイミングを知ることができます。

 

投資家は、ノイズではなく、シグナルに対して適切に質問や指摘をする必要があります。シグナルを見極めるためには、数値を点でとらえるのではなく、数値を時系列の連続したつながりであるトレンドで捉える必要があります。更に、トレンドの背後にあるストーリーを見ていきます。

 

ストーリーから切り離された数値は、無意味です。「企業の目指している長期のビジョン」「戦略」「戦略的目的を達成するための投資」が、「過去から現在まで企業が行ってきた活動や実績」によって裏付けられるものであるかどうかを見極める必要があります。

 

現時点でのROEだけに焦点を絞ると、今後ROEがどの方向へ向かって動いていくかを把握することができません。本来、ROEが示す方向性の背後に隠れている「長期的な企業の方針や取り組み」と合わせて適切に評価していく必要があります。