企業が価値創造ストーリーを伝達するために必要な統合思考とは?

企業は、企業を取り巻く「顧客、従業員、投資家・株主」といった内外の利害関係者に企業の「価値」を適切に理解してもらうことで、信頼を得る必要があります。

そのためには、ただ単に良い製品を作りサービスを提供すればよいわけではありません。「誠実な情報開示」が、企業の信頼性に影響を与えます。

誠実な情報開示を行う際には、企業の価値創造に関する情報のピースが一つの物語(ストーリー)のようにつながっていることが重要です。情報のつながりがあることで、企業が創造している価値の全体像を把握することができ、理解が深まるからです。

企業の全体像を把握するための媒体の一つに、「統合報告書」があります。統合報告書では、企業の過去・現在・未来における企業の価値創造を理解するための要素が記載されています。

例えば、企業のビジョン、理念、戦略、ビジネスモデル、パフォーマンスといった項目がつながりをもって説明されています。

企業が統合報告書を作成する際に、ベースとなる重要な思考があります。それは、「統合思考」と呼ばれています。どのような思考なのか、以下で見ていくことにしましょう。

統合思考とは

統合思考とは、企業が「ばらばらに存在するさまざまな資本を繋ぎ合わせ、どのように長期にわたる価値を創造しているのか」について、「ストーリーとして紡ぐ」ための捉え方です。統合思考は情報開示において基本となる思考です。

統合思考が組み込まれた経営とは、「短期的な売上や利益」といった財務的な要素だけでなく、「強みである人材や技術」「事業活動が環境や社会へ与える影響」など、企業を取り巻くさまざまな要素を包括的かつ中長期的に踏まえた意思決定が行われることを指します。

一方で、組織はこれまでさまざまな情報を断片的に開示してきました。例えば、財務情報を報告するための「有価証券報告書」や「知的財産報告書」「サステナビリティ報告書」「CSR報告書」「ガバナンス報告書」などが上げられます。

それぞれの報告書は、企業の一部分切り取った情報であり、単独では企業の価値創造の全体像を把握することが難しいのです。そこで、「統合思考」が必要となります。下図で、統合思考を、「手を動かす脳の働き」に例えたものです。

「手は第二の脳」と言われています。手を広げてみると、それぞれの指は、てのひらで結合されていることがわかります。手は、脳からの指令によって動かすことが可能です。

例えば、「人差し指だけを使いたいとき」「すべての指を使って何かを動かしたいとき」など、脳からの指令がなければ指や手として機能することができません。

企業から開示されているさまざまな情報についても同じことが言えます。それぞれの情報が、特定の目的で作成されている場合でも、他の重要な情報と互いに連携をしてチームのようにつながりのある形で提供されることが大切です。これが、各情報の価値を高め、活用されるうえで必要だからです。

統合思考における2つのポイント

統合思考を働かせる際には、「資本」と「時間軸」の捉え方がポイントとなります。

まず1つ目のポイントは、「資本の捉え方」です。ここでいう「資本」とは、いわゆる会計上の財務的な資本だけでなく、財務情報には表れてこない無形資産である「知的資本」「人的資本」「社会・関係資本」「自然資本」などを指します。

つまり、組織を取り巻くさまざまな資本を包括的に捉えることが重要になります。

包括的に資本をとらえた上で、組織が価値を創造するための戦略やビジネスモデルにおいて重大な影響を与える資本を絞り込み、特定する必要があります。

この際、それぞれの資本を個別に検討するのではなく、価値創造の全体像を鳥が高いところから見下ろすように俯瞰して検討することが大切です。

俯瞰して捉えると、「ある資本を活かすことによって、他の資本が犠牲になっているような状況(=トレードオフの状況)が生じていないか」を検討することができるからです。

例えば、「製品を売れば利益(財務資本)になる一方で、製品から生じる環境への影響(自然資本)がマイナスの場合」、財務資本と自然資本の間にはトレードオフの関係が生じます。

統合思考を使い、価値創造の全体像を捉えることにより、短期的な財務価値の追求だけでなく、社会的な価値とのバランスを確かめながら、長期的な価値創造に結び付けることが可能になります。

2つ目のポイントは、「時間軸」の捉え方です。従来型の情報開示では、財務情報が中心でした。財務情報は、会計年度である1年を1つの報告期間として区切り、情報開示が行われます。

統合思考をベースとする情報開示では、1年という短期ではなく、過去・現在・未来といった長期の時間軸で企業の価値創造について捉えていきます。

以上のような統合思考が経営に組み込まれると、「短期的な売上や利益」といった財務的な要素だけにとらわれることなく、「強みである人材や技術」「事業活動が環境や社会へ与える影響」など、企業を取り巻くさまざまな要素を包括的かつ中長期的に踏まえた意思決定を行うことができるようになります。

企業が開示している情報のピースをつなげてストーリーにするには、統合思考が経営に組み込まれていることが前提となります。統合思考が組み込まれた経営とその経営の姿をストーリーとして伝達していくことが、企業の信頼性を高める上で重要となります。