企業は「従業員、顧客、株主」といった内外のステークホルダー(=利害関係者)とのコミュニケーションを行うために、さまざまな情報を開示しています。
情報を開示する上で重要なのは、それぞれの情報のピースが1つの物語のようにつながっていることです。企業が伝えたい情報も、内外のステークホルダーが知りたい情報も、つながりのある「ストーリー」としての情報を必要としているのです。
企業の実態について、ストーリーとして伝達する媒体の一つに、「統合報告書」があります。統合報告書は、単に企業の短期的な利益を一方的に報告するのではなく、企業の過去・現在・未来における価値創造について、双方向のコミュニケーションに役立てるために作成されていいます。
企業の情報開示のグローバルトレンド
統合報告書は、企業の情報開示におけるグローバルなトレンドになっています。日本においても、約200社近くの企業が統合報告書を公表しています。
統合報告書を発行している企業の多くは、国際統合報告評議会(IIRC)という組織から公表されている「国際統合報告フレームワーク」を参考にしています。
統合報告フレームワークを活用する際には、「統合思考(Integrated Thinking)」「統合報告(Integrated Reporting)」「統合報告書(Integrated Report)」の3つの用語の違いを理解しておく必要があります。
今回は、この国際統合報告フレームワークを活用する上で基本となるこれら3つの用語について見ていくことにしましょう。
統合思考(=Integrated Thinking)
まず、統合思考とは、企業が「ばらばらに存在するさまざまな資本を繋ぎ合わせ、どのように長期にわたる価値を創造しているのか」について、「ストーリーとして紡ぐ」ための捉え方です。統合思考は情報開示において基本となる思考です。
統合思考が組み込まれた経営とは、「短期的な売上や利益」といった財務的な要素だけでなく、「強みである人材や技術」「事業活動が環境や社会へ与える影響」など、企業を取り巻くさまざまな要素を包括的かつ中長期的に踏まえた意思決定が行われることを指します。
統合報告(=Integrated Reporting)
次に、統合報告とは、投資家をはじめとする利害関係者とのコミュニケーション・プロセスです。統合思考に基づき、組織の短期・中期・長期における価値創造について対話を行います。統合報告の目的は、継続的な対話を通じて、企業が持続的に価値を創造していくことです。
例えば、資金提供者である銀行や投資家は、企業の財務的な数値だけを見ているわけではありません。企業との対話の場において質問をし、「信頼できる経営者であるかどうか」「戦略やビジネスモデルが企業の目的達成のために有効かどうか」を見極めています。
また、投資家面談や銀行融資の審査面談など対話の場における企業への質問の多くは、純粋な「疑問」ではなく、企業に対する「リクエスト(要求)」です。そのため、企業は、対話を通じて得られるステークホルダーからのリクエストを経営に反映し、更なる価値創造へ役立てることができます。
また、企業側にとっての対話の場とは、ステークホルダーからの質問に受け身で答えるだけの場ではありません。対話の場とは、自社が伝えたい強みなど本質的な価値について、企業が主体的に伝達できる場として活用することができます。
このような「企業」と「重要なステークホルダー」による血の通った対話が、統合報告というプロセスです。
統合報告書(=Integrated Report)
統合報告書とは、統合報告を行うためのツールです。統合報告書に含まれる内容には、「企業概要」「外部環境」「ガバナンス」「ビジネスモデル」「リスクと機会」「戦略と資本配分」「パフォーマンス」「将来展望」などが含まれています。
効果的・効率的な対話を行うためには、あらかじめ互いの情報の前提条件を整えておくことが重要です。統合報告書という同じ媒体を使うことは、企業と重要なステークホルダーの対話のための前提条件をそろえることに役に立ちます。
例えば、重要なステークホルダーが統合報告書に記載されている内容について質問を行えば、企業とステークホルダーの双方において、何について議論しているのかが誤解なく共有されます。これが、双方における理解のすり合わせに役立ちます。
また、企業は、「価値創造における最も重要な事項に絞り込むこと」を念頭に、統合報告書に記載する内容を検討すると効果的です。情報を絞り込むことにより、投資家が企業を評価する上で有益な情報を取りやすくするための導線を作ることができるからです。
以上、統合報告フレームワークを活用する際に押さえておきたい3つの用語である「統合思考」「統合報告」「統合報告書」について確認しました。これら3つの用語で示された「統合思考」「統合報告」「統合報告書」という役割は、相互に関連し、相互に強化しあっています。
「基本となる統合思考」「コミュニケーション・プロセスである統合報告」「コミュニケ―ション・ツールとしての統合報告書」を理解し、統合報告フレームワークを活用していきましょう。