企業の「利益」だけでなく、どのような「価値」を創造しているのかに着目することの重要性がたかまってきています。企業の価値創造の実態を知るための情報の一つに、「統合報告書」というものがあります。
統合報告書とは、「企業が過去から現在までにどのような価値を生み出したのか」「将来にわたって価値を創造する能力があるのか」を知る手がかりとなる媒体です。
統合報告書を媒体として行うコミュニケーションプロセスを、「統合報告」と呼んでいます。統合報告は、一方的に企業が情報を伝達することではありません。
統合報告とは、企業とステークホルダー(=利害関係者)が、企業の価値創造のあり方について、双方向に行うコミュニケーションプロセスのことです。
統合報告は、企業が行ってきた情報開示の歴史の中で、統合報告が求められるようになった背景にはどのような要因があるのでしょうか。以下に、企業開示のグローバルなトレンドとなった統合報告に大きな影響を与えた、3つの重要な要因についてみていきましょう。
1.短期志向の是正
統合報告は国際的な開示のトレンドになりつつありますが、これほどまで国際的な動きに発展したことの最大の理由として、2008年の金融危機があげられます。
財務情報を中心とする従来型の開示が投資家の短期志向を促進し、短期の企業評価が金融危機を招いた一つの理由として指摘されています。
また、そうした投資家の短期的思考が同時に企業側の経営の短期志向を促すことになったと、イギリスのKay Reviewというレポートの中で指摘されています。
2001年は、米テキサス州にあったエネルギー会社のエンロンが、巨額の会計不正によって倒産するという事件がありました。また、2008年の金融危機(通称リーマンショック)によって再度企業情報への信頼性が低下してしまったと言えます。
「金融の安定化」と「経済社会の持続可能性」の実現にむけ、信頼ある企業情報、進化したコミュニケーションが求められるようになりました。
2.開示情報の乱立回避
企業の開示担当者にとっての仕事量が増えています。なぜなら、外部の様々なステークホルダーからの情報要求に応えるために、いくつもの異なる報告書を作成しなければならないからです。
例えば通常の「財務報告」に加え、「サステナビリティ報告書」「CSR報告書」「ガバナンス報告書」「知的財産報告書」など実に様々な報告書が求められてきました。作成するためのコストと時間は大きな負担となっているでしょう。
その上、ステークホルダーの情報ニーズに対応する部署が他の部署とあまり連携することなく報告書を作成するため、サイロ問題(=各部署のコミュニケションがなく、たこつぼ化している問題)を引き起こしています。また、実際には投資家には十分に情報が利用されていないという悪循環を生み出していました。
そのため、企業の開示負担を軽減し、投資家をはじめとするステークホルダーとの効果的なコミュニケーションが求められるようになりました。
3.資本概念の拡大
昨今、企業価値に占める財務資本以外の資本の割合が高まるにつれ、適切に企業を評価しようとすると、財務情報だけでは不十分となってきています。
財務資本以外の資本というのは、人材などの人的資本、ノウハウや特許、組織力なども含む知的資本の他、水などの自然資本、コミュニティなどの社会資本などが挙げられます。
これらの様々な資本の組み合わせによって創造される価値についてのコミュニケーションや、進化した資本主義の在り方を反映する開示の枠組みが求められるようになりました
以上、統合報告が求められた背景には、「短期志向の是正」「情報開示の乱立回避」「資本概念の拡大」など重要な要因がありました。
統合報告は、投資家をはじめとする内外のステークホルダー(=利害関係者)とのコミュニケーションを改善することによって、経営そのものをより良いものにしていくためのプロセスであることを理解しましょう。