統合報告は企業の価値創造についてのコミュニケーションプロセス

企業の実態を知るための情報の一つに、「統合報告書」というものがあります。統合報告書とは、「企業が過去から現在までにどのような価値を生み出したのか」「将来にわたって価値を創造する能力があるのか」を知る手がかりとなる媒体です。

単に、「利益」が出ているかどうかだけで、企業の良し悪しを判断することはできません。そのため、私たちは企業が生み出す「価値」に目をむけ、企業の実態を把握する必要があります。

そのためには、統合報告書を作成したり、読み解く際に最も重要な「思考」があります。それを「統合思考」といいます。

「群盲象をなでる」を理解する

あなたは、「群盲象をなでる」というお話をご存知でしょうか。

このお話は、インドが発祥と言われている寓話です。6人の目の見えない子供たちが象の鼻や足、耳やしっぽなど一部分だけを触り、その感想について語り合うというものです。

例えば、鼻をさわっては「これはロープのようだ」と言い、足を触っては「これはうすのようだ」と言い、また、耳を触っては「これは大きなうちわのようだ」と言い合っています。

このように、一部分だけを見て全体を理解したつもりになると大きな間違いを起こす危険性があると言うことの戒め(いましめ)のお話として知られています。

統合報告の役割

現在の企業の情報開示においても、共通した課題が見えてきます。

これまで、企業は外部から要求された情報の開示に対して、に真摯に対応してきました。その結果、実に多くの情報を開示してきました。

しかし、その企業努力とは逆に、企業が情報を開示すればするほど、企業の本来の姿や強みが見えにくくなっていました。さらには、適切に企業の価値を評価するたに、開示された情報が有効に活用されるケースはまれでした。

なぜなら、開示されている情報には、「つながり」がなかったからです。情報は、パズルのピースのように断片として存在していました。断片的な情報では、企業が価値を創造する活動の全体像を把握することが非常に困難です。

「統合報告」とは、企業が価値を創造する活動の全体像について、重要な内外のステークホルダー(=利害関係者)とコミュニケーションを行う「プロセス」を指します。

統合報告は、一方的に企業が情報を伝達することではありません。企業とステークホルダーが、双方向のコミュニケーションを行うことです。相互補完的にパズルのピースを有機的につなぎ合わせていく共同作業を通じて、長期的な企業価値を創造していくプロセスであると言えるでしょう。