企業の事業にとっての「多様性」と「障がい者雇用」のつながり

近年、多様性(ダイバーシティ)という言葉が様々なところで使われています。企業の開示情報のなかでも、雇用問題に関連して「女性」「外国人」「障害者」を対象とする人材の多様化についての記載が増えてきました。

特に、「障害者の雇用」に関しては、厚生労働省より「障害者の雇用促進等に関する法律」において法定雇用率が定められています。民間企業においては2013年4月1日より、法定雇用率1.8%から2.0%への引き上げになりました。

企業の情報開示、特にサステナビリティ(持続可能性)報告書や、企業の社会的責任としての活動報告書であるCSRレポートなどでは、この障害者雇用率や障害者雇用人数を指標として開示する企業が多くなっています。

今回は、企業の人材における多様性と障がい者雇用率について見ていくことにしましょう。

▼政府が考える障がい者との共生

内閣府からは以下のような障害者との共生に関する指標が提示されています。

内閣府:障害者との共生に関する指標

指標①:ノーマライゼーションへの支持
(ノーマライゼーションの考え方を支持する人の割合)

指標②:障害の認識

(電車やバスが車椅子の人のために長く停車することに肯定的な人の割合)

指標③:障害に関する取組への評価

(障害のある人々のために活動を行う企業の製品を買いたいと考える人の割合)

(ノーマライゼーション:高齢者や障害者などを施設に隔離せず、健常者と一緒に助け合いながら暮らしていくのが正常な社会のあり方であるとする考え方。また、それに基づく社会福祉政策。)

▼企業における障害に関する取り組み

「指標③:障害に関する取り組みへの評価」の例としては、「ユニバーサルデザインの認知度」が挙げられています。ユニバーサルデザインとは、日常使っている製品や建物、サービスなど、すべての人にとって、できる限り利用しやすいデザインにすることを目指す考え方のことです。

企業の情報開示においても、色盲の方を考慮した「カラーユニバーサルデザイン」を採用した配色で報告書を作成している企業もあります。

単なる利益の追求ではなく、事業を通じた社会問題の解決が、経営に求められています。また、社会的価値の創出は、経営上の経済的価値の創出につながっているという認識が広まっています。

本業の製品やサービスにユニバーサルデザインを組み込む企業においては、単に「法定雇用率」を満たすために障がい者を雇用していません。

「義務」として雇用することを超え、ともに問題解決プロセスに取り組む企業の重要な価値創造の源泉である「人財」として捉えているのです。

つまり、障害者雇用率という法定雇用の観点だけでなく、自社の製品やサービスといった事業が社会にどのようにインパクトを与えるのかといった観点からの指標設定が必要です。

▼「多様性」が自社の事業にとってどんなインパクトがあるのかを明確にする

多様性という言葉は、「性別」「言語」「障害の有無」など、企業の事業によっては重要度がことなるため、意味合いも異なってきます。実は、同じ「多様性」という言葉を使いながら、企業によっては全く異なる意味でつかっていることもあります。

そのため、まず企業の事業につながる「多様性」の意味や重要性を明確にする必要があります。障がい者の雇用率を重要な指標として開示している企業においては、障がい者の雇用が事業の価値の創造とどのようにつながっているのかという観点から再度議論してみてください。

そのつながりを明確にすることが、今後企業が「義務」として多様性にとりくんでいるのか、それとも、「将来の価値創造」のために取り組んでいるのかを外部が判断するポイントになります。