「長期的な価値の創造」は、企業が継続して事業を行うための重要な要素となっています。企業が長期的に価値を創造していくかどうかを知ってもらうためには、過去の財務的な業績だけでなく、未来に向けたビジョンや投資内容、関連するリスクや戦略、ビジネスモデルといった将来についての情報を開示することが必要です。
そうしたことをまとめた書類として、統合報告書があります。企業のこれまでの歩みと、これからの方向性について、「統合報告書」という媒体で情報を発信する企業が増えています。
統合報告書を作成するために国際統合報告フレームワークを入手する
統合報告書とは、「企業が過去から現在までにどのような価値を生み出したのか」「将来にわたって価値を創造する能力があるのか」を知る手がかりとなる媒体です。
企業が統合報告書を作成するには、作成するための思考や検討すべき開示内容について書かれた「国際統合報告フレームワーク」を活用します。この国際統合報告フレームワークは、国際統合報告評議会(International Integrated Reporting Council:以下「IIRC」)という組織から公表されています。
統合報告を始めるには、まず国際統合報告フレームワークを入手しましょう。フレームワークは国際統合報告評議会(IIRC)のホームページからどなたでもダウンロードすることができます。
統合報告書の作成は義務ではない
統合報告書を作成し、投資家をはじめとする重要な利害関係者(=ステークホルダー)へ情報開示することは、法律で決められた義務としての強制的な開示ではありません。これは、あくまで企業側の意思にまかせた任意による開示です。
そのため、企業は、国際統合報告フレームワークで記載されているすべての要求事項を満たす必要はありません。そういう意味では、各社の独自性をアピールすることのできる媒体が統合報告書です。
ただし、長期的な視点で見ると、まず最初に国際統合報告フレームワークを理解し活用することは、企業が効果的な統合報告書を作成する近道になるでしょう。こうした「型」を守ることが、最も確実だからです。
統合報告書を独自性の高いものにするファーストステップとは
例えば、日本では、茶道や武道など「道」を極めようとするときの段階を示した「守(シュ)・破(ハ)・離(リ)」という概念があります。まず「型」を守り、次に破り、そして離れることで独自のスタイルを確立するという考え方です。統合報告書を作成する過程を「守・破・離」に置き換えてみると、以下のようになります。
守:報告書をフレームワーク通りに作ることができる
破:フレームワークよりも作りやすいようにアレンジできるようになる。
離:自社の強みの組み合わせやイノベーションが生まれ、オリジナルの報告書ができるようになる。
例えば、以下の2つの絵を見てみてください。これらは、同一人物が描いたものです。
作者は、ピカソです。左は、ピカソが14歳のころの作品でデビュー作(「初聖体拝領」)であり、右は56歳の作品(「泣く女」)です。ピカソも最初は基本を忠実に学び、さまざまな影響を受けたのち、独自の絶対的なスタイルを確立したことが分かります。
これと同じことを、統合報告書でも行う必要があります。つまり、最初は適切なフレームワーク通りに統合報告書を作成し、投資家などのステークホルダーに対してレポートを提示するようにするのです。
統合報告書は、最終的には独自性の高いレポートを作成できることが理想的です。ただ、最初からレベルの高い統合報告書を作成するのは難しいため、そのファーストステップとしてフレームワークを理解し、これを社内の共通言語として活用していきましょう。