営業活動によるキャッシュフロー:見るべき2つのポイント

キャッシュフロー計算書

 

企業の財務的な状態の過去・現在・未来を把握するための情報である財務三表には、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」があります。その一つであるキャッシュフロー計算書は、企業のキャッシュの一年間の動きを「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つの切り口で捉えたものです。

 

 
営業活動によるキャッシュフロー

 

今回は営業活動によるキャッシュフローに焦点をあて、見るべき2つのポイントを見ていくことにしましょう。各ポイントでは、異なる期間の数値を比較するために目を横にスライドさせたり、異なる項目間の数値を比較するために目を縦にスライドさせてみていきます。

 

なお、キャッシュフロー計算書を作成する方法には、直接法と間接法の2種類あります。実務では、間接法が採用されることが多いため、ここでも間接法を前提に話を進めていきます。

 

ポイント1:減価償却費

 

営業活動によるキャッシュフローは、本業からの収入と支出の差額です。そして、「(税引前)当期純利益」をスタート地点に様々な調整を加えていきます。

 

ここで、なぜ「税引後」ではなく「税引前」を使うのかについては、決算日後に法人税等の支払いが行われるからです。つまり、キャッシュフロー計算書を作成する当期には、当期の税金に関連するキャッシュの動きがないということです。

 

調整の一つのポイントが減価償却費です。減価償却費とは、キャッシュは出て行かないけれど、費用として認識されるものです。

 

例えば、会社の営業用に200万円の車を購入したとします。これはキャッシュで購入すれば、キャッシュフロー上は200万円のマイナスになります。

 

一方、利益を計算する上では、車の購入金額を使用可能期間である耐用年数で割って、1年分の費用を算出します。車の耐用年数を4年とすると、200万円÷4年=50万円となり、利益に与えるインパクトは50万円のマイナスとなります。

 

このようにキャッシュが出て行っていないにもかかわらず、利益50万円マイナスされているため、キャッシュフロ―計算書では、この50万円分を足し戻すという調整を行います。

 

企業から出されている財務情報は、大抵の場合、当期と前期の2期間分の数値が併記されています。

 

まずは、前期と当期の減価償却費の水準を確認します。水準がある程度安定しているかどうかを比較によって確かめます。もし大きな数値の変動があれば、減価償却費の認識方法を確かめたり、投資方針なども確認して原因を明らかにします。

 

さらに、企業の積極的な投資姿勢をみるために、減価償却費と「投資活動によるキャッシュ・フロー」にも目を向けてみましょう。

 

投資活動によるキャッシュフローには、「資本的支出」や「有形固定資産の取得」といった設備投資に関連する項目があるはずです。

 

この「設備投資」に関連する項目に記載されている金額と、営業活動によるキャッシュフローの「減価償却費」の金額を比較します。設備投資が減価償却費を上回っていれば、企業が積極的に投資をしていると判断することができます。

 

ただし、数値だけで判断するのではなく、企業の戦略と数値の動きに整合性があるかも確認することが大切です。

 

ポイント2:売掛金と買掛金の増減

 

営業活動によるキャッシュフローでは、売掛金の減少分と買掛金の増加分について足し戻します。逆に、売掛金の増加分と買掛金の減少分については、差し引きます。売掛金も買掛金も「掛」という漢字が入っているとおり、掛取引(かけとりひき)です。

 

掛取引とは、代金の支払いや回収がそれぞれ商品の購入時もしくは販売時に行われるものではなく、月末などある一定の期間を経過した特定の日に支払(出金)や回収〈入金)されることを約束して売買をする信用取引です。

 

クレジットカードのクレジットが「信用」を意味し、特定の日に引き落としがされることと同じです。クレジットカードも、まさに信用取引です。

 

利益の計算においては、現金の支払や入金ベースではなく、このように信用取引ベースで売上や費用を計上するため、認識のタイミングの違いからキャッシュと利益の額に「ずれ」が生じるのです。

 

この「ずれ」を営業キャッシュフローでは調整していきます。

 

まず、売掛金とは掛取引によって生じた代金を回収する権利であり、将来の特定の日まで現金の入金はありません。このような現金が手元にない状況は、資金繰りを悪化させます。つまり、売掛金の増加は、キャッシュフローにマイナスの影響を与えるため、営業活動によるキャッシュフローでは差し引いていきます。

 

次に、買掛金です。買掛金とは、掛取引によって生じた代金を支払う義務ですが、将来の特定の日まで現金による出金はありません。つまり、取引を行った後でも現金が手元にある為、資金繰りが楽になります。つまり、買掛金の増加は、キャッシュフローにプラスの影響を与える為、営業活動によるキャッシュフローで足し戻します。

 

これら売掛金や買掛金の増減の額を、それぞれ前期の数値と比較します。

 

例えば、数値に大きな変動がある場合は、取引先との支払い条件が大幅に変更されたなどの理由が考えられます。取引先との関係性がどのように変化したのか、数値だけでは把握することが難しいため、企業が開示している他の情報も使って確認するといいでしょう。

 

たとえば、統合報告書や有価証券報告書の記述情報をダウンロードして「取引先」をキーワードに検索をかけます。そして、企業と取引先との対処すべき課題やリスクの記述が無いか確認するのも一つの方法です。

 

また、売掛金の増減と買掛金の増減を比較しバランスを見ることも大切です。

 

売掛金の増減と買掛金の増減の額がほぼ同水準であれば、資金繰りには大きな影響はありません。売掛金が増え買掛金が減っている場合などは、資金繰りが悪化していきます。逆に、売掛金が減り、買掛金が増えている場合は、資金繰りが楽になります。

 

以上のように、営業キャッシュフローを見る際には、1)期間比較のために目を左右にスライドさせたり、2)項目間のバランスをみるために目を上下にスライドさせて、数値の背後にある状況について目を向けることが大切です。