損益分岐点:利益と赤字の分かれ目を「点」と「面」で捉える

企業の目的は価値を創造することです。価値とは、単に利益を生み出すことではなく、顧客や広くは社会にとって役立つ製品やサービスを提供することです。価値を持続的に創造することで、利益を出し、会社の血液であるキャッシュを循環させることが大切です。

キャッシュを循環させるためには、「どのくらい製品やサービスを提供すれば利益がでるのか」を数値として把握しておくことは、企業が存続していく上で必要不可欠です。

血液の流れが止まれば人が死に至ると同じように、「価値」「利益」「キャッシュ」といった循環が止まってしまうことは、企業の寿命に影響を与える可能性があります。

そこで確認すべき重要なポイントが、「損益分岐点」です。損益分岐点とは、収入と支出が同じ額、つまり「収支トントン」となるポイントです。

企業が利益をだしているのか、赤字に陥りそうなのかを正確に知るために、損益分岐点の計算方法と活用の仕方について確認してみましょう。

「点」としての損益分岐点

まず、損益分岐点の計算で必要な数字は、「売上高」「変動費」「固定費」の3つです。より正確な計算を行うためには、内部で管理している原価計算書が必要ですが、これは開示義務がなく入手することが困難なため、今回は誰でも入手可能な損益計算書をベースに簡便的な方法で計算します。

損益計算書においても、費用が変動費と固定費で分けて記載されているわけではありません。変動費とは、売上高に比例して増える費用のことです。

例えば、お化粧品であれば、ファンデーションや口紅の原材料費は、売れた分だけ増えるため、変動費に該当します。一方、固定費とは、売上高の増加に関係なく一定額発生する費用です。例えば、お化粧品が売れても売れなくても販売員が正社員であれば一定額の人件費が発生し、これが固定費となります。

今回は、簡便的に、変動費を損益計算書上の「売上原価」とし、また、固定費をそれ以外の費用として「販売費及び一般管理費」とすることにします。

損益分岐点における売上高の計算方法は以下の通りです。

損益分岐点売上高=固定費/(1-変動費率*)

*変動費率=変動費/売上高

これにより損益分岐点における売上高が計算されますが、グラフ化して視覚で捉えることで理解がしやすくなります。以下のグラフ化の手順にそって、作成してみてください。

例として、売上高3000億円、変動費500億円、固定費1500億円とします。
計算式を当てはめると、
損益分岐点=1500/(1-500/3000)=1800

ステップ1)    縦軸(y)に「費用・利益」、横軸(x)に「売上高」として線を引きます。
ステップ2)    yとxの接点から斜め45%(x=y)となるように、売上高の線を引きます。
ステップ3)    固定費線を水平に引きます。
ステップ4)    縦軸と固定費線の接点を起点に、変動費の線を引きます。この時、変動費は売上高の増加に連動するため、固定費と異なり右上がりの線になります。右上がりの線の傾きは、変動費を売上高で割ることによって求めます。(変動費の傾き=500/3,000=0.5)

この計算式の結果、1800億円がこの会社の損益分岐点となります。つまり売上高が、1800億円以下であれば赤字、1800億円以上の場合は利益が出ていることになります。

「面」としての安全余裕率

損益分岐点は収支がトントンのポイントです。損益分岐点が明らかになると、「特定の時点における売上高が何%下がると赤字になるのか」も計算できます。言い換えると、現時点での売上高が赤字になるまでにどのくらい余裕の幅があるかを「面」として把握することができます。

この余裕の幅の事を、「安全余裕率」と言います。安全余裕率の計算は以下の通りです。

安全余裕率=100%-損益分岐点比率*

*損益分岐点比率=損益分岐点/売上高×100%

先に挙げた例(売上高3000億円、変動費500億円、固定費1500億円)を再度当てはめてみることにします。

損益分岐点比率=1800/3000×100%=63%
安全余裕率=100%-63%=37%

安全余裕率37%ということは、売上が37%落ちても、まだ利益をぎりぎり確保できるという事になります。企業が赤字に陥いる可能性を確認する一つの方法として、この安全余裕率を確認すると良いでしょう。

以上、「点」としての損益分岐点の計算方法、また、「面」としての損益分岐点を使った企業の安全余裕率について確認しました。企業の「価値」「利益」「キャッシュ」は密接な関係にあります。企業が価値を創造し続けるためには、利益を生み出していけるかが重要です。

さらに、「利益を生んでいるか」だけでなく、利益計算のスターティングポイントである売上を「どのくらいの水準に保てば赤字に陥らずに済むのか」、また、売上が「赤字に陥るまでの余裕がどのくらいあるのか」についても把握しておくと良いでしょう。