財務活動によるキャッシュフロー:経営者の「自信」を見抜く

キャッシュフロー計算書

 

企業の財務的な状態の過去・現在・未来を把握するための情報である財務三表には、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」があります。その一つであるキャッシュフロー計算書は、企業のキャッシュの一年間の動きを「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つの切り口で捉えたものです。

 

財務活動によるキャッシュフロー

 

今回は財務活動によるキャッシュフローに焦点をあて、「資金調達の状況」と「株主への還元状況」という2つのポイントを確認しましょう。

 

 

(なお、キャッシュフロー計算書を作成する方法には、直接法と間接法の2種類あります。実務では、間接法が採用されることが多いため、ここでも間接法を前提に話を進めていきます。)

 

ご自身の会社、もしくは、興味のある会社のキャッシュフロー計算書を開いてみてください。通常、「有価証券報告書」「統合報告書」といった報告書に含まれており、各企業のHP等で入手可能です。

 

財務活動によるキャッシュフローは、主に、「資金調達の状況」と「株主への還元状況」を確認することができます。
 
資金調達の状況

 

まず、財務活動によるキャッシュフローの中身を見る前に、合計額を確認しましょう。基本的には、財務活動によるキャッシュフローの合計額はマイナスであることが健全であるとされています。なぜでしょうか。

 

財務活動によるキャッシュフローがプラスになる場合というのは、「銀行からの借り入れ」や「株式を発行して株主から資金を調達した額」が「返済額」や「株主への配当額」を上回る場合であると言えます。

 

銀行からの借り入れは、元本に加えて利息の返済が必要な資金で、これを有利子負債と言います。銀行からの借り入れにより、キャッシュフローがプラスになっても、これは一時的なものであり、いずれこのプラス分を返す必要があります。

 

銀行からの借り入れ自体が悪いことではなく、有利子負債が返済額を超えて増えていることが会社にとって好ましい状況ではありません。

 

また、株式を新たに発行して株主から資金を調達すると、新たに発行した株数分だけ、既存の株数が増えます。そうすると、一株当たりの利益を計算する際に、分子である株数が増え、結果として一株当たりの利益は減少することになります。これは「希薄化」と呼ばれ、結果として株価が下がる傾向になるのが一般的です。

 

しかし、増資自体が悪いというわけではありません。将来の成長へ投資をするという積極的な企業のスタンスの表れでもあります。

 

株式による資金調達は、返済の義務がないため、企業にとっては長期的に安定した投資が実現できます。従って、増資の解釈の仕方は、投資家サイドが短期志向か長期志向化によっても、異なってくると言えるでしょう。

 

短期的には一株当たり利益は確実に減少します。しかし、長期的に一株当たり利益を計算する際の分母である「純利益を上げることができるのかどうか」に目を向ける必要があります。

 

その為には、資金調達の額や調達方法として株式による増資を選択した企業側の背景について確認する必要があるでしょう。中期経営計画などを読んで、戦略やビジネスモデルが資金調達の額や方法と整合しているかどうかもポイントとなります。

 

セオリー通りに、「財務活動によるキャッシュフローはマイナスであることが健全」と判断してしまうと、企業が長期的に生み出すはずの価値や利益の予測を見誤る可能性があるので注意が必要です。

 

株主への還元状況

 

会社の業績が好調で充分な利益が出ている時は、その利益を株主へ還元します。株主の還元方法には、「株主への配当」「自社株買い」などがあり財務活動によるキャッシュフローでその還元状況を確認できます。

 

自社株買いとは、既存の株主の持っている株式を、企業が市場から買い戻すことを指します。会社が自社株買いを行うと、買い取った分の株式数だけ発行済み株式数の総数が減ります。

 

つまり、既存の株主にとっては、配当金を分配するときの分母が少なくなるため、分配率が上がります。

 

例えば、これまでケーキを5人でわけていたところ、1人減り4等分すればよくなったため、一人当たりのケーキの大きさが増えるようなものです。

 

株主還元を「配当金」にするか「自社株買い」にするかは、企業が自社の株価を「割高」とみるか「割安」とみるかによって判断されることが一般的です。割高と判断している場合は「配当金」、割安と判断している場合には「自社株買い」を行う企業が多いです。

 

割安とは、株価が本来の価値よりも低いことを意味します。つまり、今よりも今後株の価値が高まると判断し、自社株買いを行うのです。これは、経営者の「将来業績への自信の表れ」と受け取ることもできるでしょう。

 

一方、配当にしても自社株買いにしても、自社への長期投資が減っている状況で行われていると、「将来の投資機会がないのでは」と投資家にネガティブに捉えられることもあります。

 

そのため、企業は利益の分配方法について「将来の事業拡大を見据えた長期投資」「株主への配当」「自社株買い」に関する基本ポリシーを開示することで、長期投資家の理解を得る必要があります。

 

つまり、長期投資家は、配当の金額や自社株買いの内容と頻度だけでなく、企業の開示している基本ポリシーと株主還元の状況が整合しているか、といった観点からも企業の信頼性を評価する必要があります。

 

以上のように、財務活動によるキャッシュフローを見る際には、「資金調達の状況」と「株主への還元状況」のトータルのバランスと共に、その他開示されている情報との整合性も確認しながら見ることがポイントとなります。