返済する必要のある資金は適正な水準か?:比較対象の選択がカギ

あらゆる数値に言えることですが、ある一時点の単独の数値に意味を与えることは不可能です。数値に意味を与えるには、何らかの比較が必要です。人は、比較によってのみ、数値の本質的な意味を捉えることができ、適切な判断に役立てることができるようになります。

企業の財務情報では多くの数値が記載されています。ある数値の意味を知るためには、どの数値と比較すればよいのかも知る必要があります。今回は、企業が銀行などから調達した資金である「有利子負債」に焦点をあて、その数値の意味について探っていくことにしましょう。

 

有利子負債

 

銀行などから調達した資金である「有利子負債」は、企業が開示している財務三表の一つである「貸借対照表」の「負債の部」に記載があります。貸借対照表は、企業の有価証券報告書や統合報告書に含まれており、各社のホームページからダウンロードすることが可能です。

 

企業の倒産にも影響を及ぼす有利子負債とは、銀行からの借入や社債など、元本に加えて利息の返済が必要な資金のことを言います。

 

まずは負債の部の合計額を確認します。単独の数値を見ても、それが一体どのくらい大きいのか、適切なのかは理解することができません。そこでまず、負債の部の大きな構成要素である、流動負債と固定負債のバランスを見ていくことにしましょう。

 

負債の部では、1年以内に返済する必要のあるものを流動負債、1年を超えるものを固定負債に分けて計上しています。

 

このように、「1年」を区切りに分類することを「1年基準」と呼んでいます。ここで注意しておきたいのは、1年と1日後に返済期限が来るものであっても、固定負債に分類されるという点です。

 

次に、有利子負債をさらに詳しく見ていきましょう。「短期借入金」「1年内返済予定の長期借入金」「一年ない償還予定の社債」「コマーシャル・ぺーパー」「社債」「長期借入金」などがキーワードとなります。

 

比較の対象となる数値とは

 

有利子負債の合計金額が適切な水準であるかどうかは、どのような数値と比較したらよいでしょうか。

 

1)株主資本との比較

 

最初に、貸借対照表の右下に位置する「純資産」に含まれる「株主資本」と比較してみましょう。

 

 

企業の資金調達には、大きく2種類あります。一つは、銀行からの借入や社債など、元本に加えて利息の返済が必要な資金です。もう一つは、株主・投資家からの資本金がメインとなり、これは返済する必要の無い資金で、「株主資本」と言います。

 

株主・投資家からの資本金である「株主資本」は「自己資本」と呼ばれ、上図の貸借対照表(BS)の「純資産の部」で確認することができます。返済する必要のない自己資本の額と有利子負債の額を比較することによって、どのくらい返済の必要な資金に企業が依存しているかを理解することができます。

 

これは「有利子負債比率」といい、以下の計算式で求めることができます。

有利子負債比率 = 有利子負債残高 ÷ 自己資本

 

企業経営においては、負債の返済に追われるのではなく、ある程度の自己資本を確保することで安心して経営を行うことができます。有利子負債と自己資本のバランスは、企業の戦略やビジネスモデルによってもことなります。

 

1つの目安としては、有利子負債比率が100%を超えると、「返済しなければならない資金(有利子負債)」が「返済する必要のない資金(自己資本)」を上回る為、資金繰りが苦しくなり、リスクとして認識しておく必要があります。

 

2)総資産との比較

 

次に、貸借対照表の左側の総資産と比較してみましょう。総資産と有利子負債を比較することによって、総資産が、どのくらい有利子負債によって調達された資金により運用されているのかを把握します。これは有利子負債依存度といい、以下の計算式で求めることができます。

有利子負債(借入金)依存度 = 有利子負債残高 ÷ 総資産

 

この比率が低ければ、有利子負債による資金調達の依存度が低く、健全な財政状態であると判断することができます。逆にこの比率が高い場合は、有利子負債による資金調達の金額が高く、返済のための手立てが必要となります。それに伴い、支払う利息の負担が大きくなり、利益にも影響を及ぼしてきます。

 

3)支払利息との比較

 

最後に、損益計算書の「支払利息」と有利子負債を比較してみましょう。利息として支払った額(支払利息)を有利子負債額で割ったものが、金利(%)であり、負債コストになります。

負債コスト(金利)=支払利息÷有利子負債*

*期首と期末の有利子負債額の平均

 

負債コストは、銀行が会社に求めるリターンであり、また、企業の信用度に応じて変動します。リスクが高ければ期待するリターンも高くなります。

 

例えば、個人でも家のローンを組む際に、職業の安定度や現時点での他の借金の状況などを踏まえて、住宅ローン金利が変わってくることと同じです。人それぞれ信用度が異なります。

 

過去の負債コストや同業他社の負債コストとの比較により、各社の信用力の変化や違い把握することができるでしょう。

 

また、支払利息と利益を比較し、利益へのインパクトがどの程度なのかも把握するとよいでしょう。利益に対して支払利息の金額が小さければ、有利子負債額の水準に問題はないと判断できるでしょう。

 

以上のように、いくつか他の数値との比較によって、負債の部の金額の意味を本質的に理解することができるようになります。適切な企業価値評価に繋がる比較対象は何かを見極め、投資の際の意思決定に役立てていきましょう。