財務的な企業価値を計算する際に大切な「割り引く」という概念

企業価値を評価する

 

「企業価値」という言葉には、財務的な価値や社会的な価値といったように複数の意味が含まれています。

 

投資家が投資価値の判断をする際の材料として算出する企業価値は、前者の財務的な価値に該当します。企業を包括的に捉えたときの価値という意味では、財務的な価値はその構成要素の一つでしかありません。

 

例えば、人の価値が年収や財産といった金額に換算できるものだけでは評価できないことと同じ様に、企業価値もまた、金額だけでは表すことができない部分が存在します。

 

上記のような限界を理解していることを前提に、企業の価値を財務的な観点から金額に置き換えて算出する方法について見ていくことにします。なお、以下にでてくる企業価値という言葉は、財務的な企業価値に限定しています。

 

「割り引く」とは

 

企業価値を算出する代表的な方法の一つが、ディスカウンテッド・キャッシュフロー(DCF)法です。DCF法を使う際に重要なのが「ディスカウント」、つまり「割り引く」という概念です。

 

仮に、あなたがA社に投資をするとしましょう。A社の事業が1年後に1000億のキャッシュを生むと予想します。しかし、1年後の「未来」において、確実に1000億のキャッシュを生み出すかどうかは分かりません。その為、ある程度割り引いて捉える必要があります。

 

例えば、いつも調子のよいことばかりを言っている人の話は「話半分できく」などと表現します。このように、「本当かどうか」「確実かどうか」が分からないことに対しては、日常生活でも割り引いて捉えていることと同じです

 

投資の話に戻すと、1年後という「時間」そのものが「確実かどうか」わからない要因、つまり「不確実性」を生んでいます。不確実性は、ビジネスにおいて「リスク」と捉えます。つまり、時間はリスクなのです。

 

これらの不確実性を考慮して、1年後の1000億円を現在価値に置き換える作業が「割り引く」ということです。割り引く際には、割引率を決定する必要があります。

 

先ほどの「話半分できく」という場合であれば、割引率は50%になります。それでは、DCF法を採用する際の割引率は、どのように決定されるのでしょうか。

 

割引率で使われる加重平均資本コスト(WACC)とは

 

DCF法で企業価値を算出する際の割引率は、一般的に「加重平均資本コスト(=WACC)」を使います。WACCとは、企業の資金調達コストです。

 

企業がビジネスを行うのに必要な資金は、主に2つの方法で調達しています。一つは、銀行からの借入など元本に加えて利息の返済が必要な資金です。もう一つは、株主・投資家からの資本金で、これは返済する必要のない資金です。

 

企業にとっての資金調達コストとは、裏を返せば資金提供者にとっての期待するリターンの大きさです。期待するリターンの大きさは、銀行と株主・投資家では異なります。なぜなら取っているリスクの大きさが異なるからです。

 

リターンがあるかどうかは分からない株主・投資家の方が、より高いリスクをとっています。そのため、銀行よりも高いリターンを求めます。

 

つまり、リターンとリスクは表裏一体の関係です。より高いリターンを求めるのであれば、より高いリスクを取る必要があります。

 

企業側からみた資金調達コスト(WACC)は、銀行と株主・投資家の期待するリターンの違いをそれぞれの出資額に応じて按分(あんぶん)する「加重平均」という方法を採用して算出されています。

 

つまりWACCは、銀行や投資家・株主がとっているリスクの加重平均とも言えます。DCF法においては、このリスクが反映されたWACCを、企業価値を算出する際の1つの割引率として採用します。

 

前提条件によって全くことなる企業価値

 

ただし、WACCは1つの割引率としての参考値にすぎないことに注意が必要です。事業をする主体や事業内容によって「確実かどうか」は異なります。そのため、割引率自体も投資価値を判断する人によるいくつかのシナリオパターンごとに異なってきます。

 

このように「割り引く」という概念が、企業価値を計算する際に大きく影響してきます。DCF法を採用する際には、、「将来のキャッシュフローの額」「割引率」といった前提条件のいくつかを変えると、その分だけ異なる企業価値が算出されるということに注意しましょう。