ビジネスモデルとは未来にわたって価値を創造し続ける能力
投資家が企業の価値を適切に評価する上で、見るべきポイントはどこにあるでしょうか。企業価値とは、「過去から現在に至るまでどのような価値を創造してきたか」だけでなく、「現在から未来にわたって価値を創造し続ける能力」です。
企業の売上や利益はもちろん重要です。しかし、それら財務情報は過去における企業活動の結果です。結果の背後にある「根拠」を探り、それが将来にわたって継続して売上や利益を伸ばしていくものであるかを確かめる必要があります。
その根拠の一つがビジネスモデルです。今回は、新たなビジネス領域であるIoT(モノのインターネット)に関連したビジネスモデルについて見ていきたいと思います。
IoTとは?
インターネットに関連するビジネスにおいて、「アイ・オー・ティー」という言葉を耳にすることが多くなりました。 「アイ・オー・ティ」とは、Internet of Thingsの略であるIoTで、「モノのインターネット」や「モノを介したインターネットサービス」と日本語で訳されています。
IoT化により、身の回りの多種多様なモノにもセンサーや通信機能が備わり、IoTデバイスとしてデータを収集することができるようになります。
例えば、冷蔵庫にIoTが組み込まれると、外出先でも冷蔵庫の中身を管理できるようになります。そうすると、消費者はスーパーで必要な食材が何かを把握することができるようになります。また、このようなデータを使って、スーパーやコンビニ業界は、消費者ニーズをタイムリーに察知することができます。
また、意外な組み合わせでは、薬にIoTを組み込むというアイディアもあります。日本では、高齢者が処方された薬を飲み残す「残薬」が増えています。残薬が増えると、高齢者にとって負担した医療費が無駄になるだけでなく、薬を飲まないことによって大きな健康被害をこうむるという問題を引き起こしています。
このような問題を解決する為に、薬に小さなジェル状のチップを埋め込み、患者が薬を飲んだかどうかを把握するためのスマートピルという薬があります。この薬は、飲むと薬の中に埋め込まれたチップが胃酸によって作動し、消化までされたことをコンピューターにメッセージとして送信される仕組みになっています。
以上のように、IoT化によって、これまで以上に膨大で多様な情報の蓄積・分析が可能になりました。これらの情報をもとに、新たなビジネスが創出されたり、社会的課題の解決に役立てることができるようになっています。
IoTによるビジネスモデル
このようなビジネス環境の変化において、投資家が見るべきポイントは、それらの提供される価値の背後にある「ビジネスモデルがどのように変化したか」です。
例えば、このIoT化によって、製造業のビジネスモデルが大きく変わるといわれています。これまでの多くの製造メーカーにおけるビジネスモデルとは、製品を作り、その対価として収益をあげるというシンプルなモデルでした。
一方、IoT化によって、製品そのものを売るのではなく、製品と繋がったコンピューターで収集されたデータの対価として収益をあげるモデルへシフトすることも考えられます。
IoT化により入手できるビッグデータを活用した新たなビジネスは、事業の延長線上や業種の範囲にとらわれることなく、より高い視点から俯瞰してビジネス環境をとらえることで、創出されていく傾向にあります。
例えば、自動車メーカーであれば、これまで車を販売していたところを、車は無償で提供し、その代わり、走行距離や燃費に応じた対価を徴収するという新たなビジネスモデルを創出できます。 IoT化によるデータを利用すれば、効果的な課金の仕方やタイミングが変わってきます。
また、IoT化によって、家電メーカーの業界マップも変更する可能性があります。冷蔵庫のIoT化によって収集された情報が必要となるスーパーやコンビニが、家電メーカーに代わって冷蔵庫を消費者に無償提供することも想定されます。
このように、消費者が商品そのものに対価を支払うシンプルな「物販モデル」から、IoT化によって収集された莫大なデータをベースに、使用料などに応じた課金システムである「従量課金モデル」といった異なるビジネスモデルにシフトしているかどうかを見極める必要があります。
しかし、企業が開示しているIoT関連の情報は、ビジネスモデルについて開示されているわけではありません。企業が開示しているのは、技術そのものや、IoT化された製品やサービスの内容に重点が置かれています。
情報利用者である投資家は、企業経営者がIoTに関連してどのようにビジネスモデルを変化させていこうと考えているのかも合わせて情報を読み解く必要があります。
以上のように、IoTに限らず、技術革新が起こる際には、ビジネスモデルの変化もあわせて着目しましょう。経営者の頭の中にある今後の方向性の根拠をビジネスモデルで確認すれば、適切な企業価値評価に役立てることができます。