2008年の金融危機(通称リーマンショック)以降、企業や投資家における「短期志向」が問題視されています。短期志向とは、長期的な価値創造を犠牲にした、短期的な利益を追求することです。
企業が短期的に利益を生み出すことは、企業が継続していく上で必要不可欠です。しかし、極端に短期の利益のみを追求していると、企業の価値が一体何であるのか薄れてきます。そして、次第に企業価値の源泉が枯渇し、短期の利益も継続的に生み出せなくなります。
今回は、長期的な視点が失われてしまう短期志向についてその影響や原因、対策について見ていくことにしましょう。
短期志向がもたらす影響とは?
2014年4月25日、経済産業省より「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築プロジェクト(通称:伊藤レポート)中間論点整理」というペーパーが公表されました。
伊藤レポートでは、「株式市場の短期化現象」を捉える一つの指標として、「株式保有年数の比較」が紹介されています。現在、日本の株式保有期間は、欧米と同様に1年未満です。今後は、さらに保有期間の短縮化が進む傾向にあるようです。
投資家の短期志向化が進むと、投資家の求める経営に企業は左右されることが多いため、投資家の短期志向化は企業の持続可能性にも影響します。
例えば、企業において短期的な業績を上げることが優先され、長期的な視点に立った投資が行われなくなります。このような状況下では、企業経営における対処すべき課題の優先順位が逆転する可能性があります。
短期と短気
日本における短期志向化について、伊藤レポートでは以下4つの理由を挙げています。
1)これまでの長期にわたる株価上昇期待が薄い状態において、短期の投資機会を追及することが経済合理性に合致していた
2)プロの投資家であるアセット・マネージャー、アセットオーナー、セルサイド・アナリスト間に短期志向を促すインセンティブが働いている
3)企業側から長期的な投資判断をするための情報が効果的に開示されていない
4)短期志向を助長する可能性のある制度的な仕組み(たとえば四半期開示)がある
一方、イングランド銀行の執行役員(金融安定担当)であるAndrew Haldaneは、株式保有期間の短期化の背景に投資家の”Impatience(=忍耐の無さ)”が高まっていることを指摘しています。
「短気は損気」という考えが日本にあるように、Impatience(=忍耐の無さ)は、短気な性格も関係しているのではないでしょうか。実際、短期志向の投資家は、2008年に起きた金融危機(通称リーマンショック)では、大きな損失を被りました。
また、投資家の短期志向やImpatience(=忍耐の無さ)には、心理的、社会的な側面も関係しています。
例えば、日本ではストレスなどで「キレる」人たちが増えているとも言います。一方で、「(やるなら)今でしょ!」が流行語になったように、他人の後押しがないと自らの判断でスムーズな意思決定がなかなかできない人が増えています。
短期志向から脱却するには?
投資家でなくとも、私たちの多くは短期志向の罠に陥りがちです。身近な生活においても、「近く(短期)にあるものは大きく見え、大きく見えるがゆえに遠く(長期)にあるものよりもより重要に見えてしまう」ということがあるのではないでしょうか?
これは、例えば絵画における遠近法と同じような働きが、脳の中で起きているからです。遠近法の錯覚に惑わされないようにするためには、視点を将来の時点にスライドさせることが効果的です。「『将来からみた今』という『過去』を客観視すること」「将来のありたい姿をはっきりとさせること」などが有効です。
以上のように、短期志向は投資家だけでなく、企業経営の面でもみられます。企業の中期経営計画を立案する際、また、企業の需要なパフォーマンス指標であるKPI(ケーピーアイ、Key Performance Indicatorsの略)を設定する際にも、短期志向に陥りがちです。
目先の利益に焦点があたり、長期的な価値創造に視点がいかない場合が多く見られます。
投資家だけでなく、企業の経営においても、長期的な視点と忍耐強い(patient)取り組みが大切であることを認識しましょう