企業の重要なパフォーマンス指標(KPI):I(=指標)とは

企業が自社の価値創造活動を理解してもらうためは、自ら進んで情報を開示することが大切です。企業が情報を開示する際に効果的なのは、企業の過去・現在・未来のストーリーについて、数値データによる裏付けを行うことです。

 

数値データによる裏付けは、多ければ多いほどよい、というものではありません。むしろ、企業の価値創造ストーリーの最も重要なポイントと関連している数値データは、少なければ少ないほど効果が高くなります。

 

企業にとっての重要なパフォーマンス指標は、KPI(「ケーピーアイ」、Key Performance Indicatorsの略)と呼ばれています。KPIの「I」は、Indicatorの頭文字で、「指標」や「指し示す」といった意味があります。

 

数値データ自体は、単独では何も語り掛けてはくれません。もちろん、企業の価値創造活動の今後の方向性を指し示してはくれません。KPIは、数値データをグラフ化するなどして、企業の未来を指し示すように加工する必要があります。

 

未来を指し示す指標として、KPIの「I=Indication」があります。今回は、企業の将来の方向性を指し示すKPIの「I」に焦点をあてて見ていくことにしましょう。

 

データと情報の違いとは?

 

2008年にワシントンDCで開催されたXBRL国際会議で、当時SEC(米国証券取引委員会)の21世紀情報開示イニシアチブ(SEC’s 21st Century Disclosure Initiative)の委員長であったウィリアム・ラッツ氏の講演を聞きました。

 

講演の中でラッツ氏は、「情報とは、不確実性を減少させるものである」と述べていました。 また、データと情報の違いについては、「データの内、利用者にとって有益なものが情報である」とも述べています。定量化されただけのデータの段階では、利用者にとって有益なものとは言えません。

 

つまり、データは、情報へ変換されて初めて有益なものとなります。KPIは、単に定量化されたデータを提供するだけではありません。つまり、KPD(Key Performance Data)ではなくKPIの真の意味を考える必要があります。

 

「I」はIndicatorであり、データではなく、情報です。そのため、KPIの「I」とは、情報を意味するInformationの「I」であると捉えておくと良いでしょう。

 

「指し示す」ためのいくつかの要件

 

まず、KPIの前の段階にKPD(Key Performance Data)があります。KPD(Key Performance Data)の段階とは、単なるデータテーブルや、単年度もしくは3年程度の期間のデータを棒グラフで並べただけのものを言います。

 

それでは、単なるデータを情報にするために、データをどのように加工すればよいのでしょうか。まずは、企業の価値創造において最も重要なパフォーマンス(=KPIのK:KeyとP:Performance) が達成されているか、達成に向かっているかを「指し示す」グラフを作る必要があります。

 

データを情報に変換するためのグラフを作る際には、以下の3つのポイントが重要です。

 

・ターゲット値(中期経営計画など)を明確に示す
・複数期間(可能であれば7期間分以上)のデータを使って時系列の変化(トレンド)を示す
・極力簡潔に示す(「3Dグラフを使わない」「いろいろな色を使いすぎない」 など。 インフォグラフィックスも作り方や使いすぎにより、理解の妨げとなる可能性があります。)

 

ただし、データを情報に転換するために効果的なグラフができても、注意しなければならないポイントがあります。それは、「最初のステップである企業の価値創造にとって『最も重要なものはなにか(=KPIのK:Key)』を間違うと、KPIが間違った方向性を示すことになる」という点です。

 

以上のように、KPIは単なる数値データではなく、企業の未来を「指し示す」必要があります。そのためには、KPIのIの意味を正しく理解する必要があります。