企業を分析する際の視点:「収益性」と「安全性」はセットで扱う

企業を分析するためのツール

 

企業の実態を把握しようとするとき、さまざまな指標を使って異なる角度から財務的な状況を分析します。「収益性」「成長性」「安全性」「資本効率性」「生産性」など多くの分析の観点が存在しているため、効率的に分析を行うことが必要です。そのため、何をどのような順番でみていくかがポイントとなります。

 

ここでは、特に経営分析の基本となる「収益性」と「安全性」の二つに焦点をあてて、指標の意味と解釈の仕方について見ていくことにしましょう。

 

収益性を測る物差し:ROE(株主資本利益率)

 

まず、収益性とは、「会社は効率よく儲けているか」について指標を使って分析します。もし単に、「会社は儲かっているか」を確かめるのであれば、企業の損益計算書を入手し、利益がプラスであるかどうかを確認します。

 

しかし、その儲けである利益が効率よく生み出されたものであるかどうかは、利益の絶対額では把握することができません。例えば、ガソリン1リットルあたり20キロmしか走らない車Aと、25キロm走る車Bがあったとします。どちらが効率よくガソリンを使って遠くまで行くことができるでしょうか。

 

収益性も車の燃費と同じように、「企業がどのくらいのお金を効率的に使って、どのくらい利益を生みだしたか」を確認する必要があります。

 

「効率よく儲かっているか」を測る指標の一つが、ROE(株主資本利益率)です。

 

ROEは以下の計算式で算出されます。

 

ROE=当期利益÷自己資本

 

このROEは、どのくらいの水準であれば平均的に良いと判断されるのでしょうか?

 

国内外の平均値を勘案すると、最低8%を超える水準を意識すべきであると言われています。もちろんこれは平均的な一つの参考値であり、会社の置かれた状況によって変化するため、すべての企業にあてはまるわけではありません。

 

ROEを使って、他社との比較を行ったり、会社の過去の数値と比較したりしながら、収益性が改善されているかどうかを確かめます。

 

安全性を測る物差し:自己資本比率

 

安全性をみるためには、その会社のすべての資本に占める自己資本の割合が重要です。そのため、自己資本比率をみることが必要です。

 

会社の資本には、投資家・株主からの出資であり返さなくてもよい資金である自己資本があります。その他、将来返さなければいけない銀行などからの借入金や社債といった他人資本があります。

 

返済不要な資本である自己資本の比率をある程度確保しておく必要があります。そうすることにより、会社の経営が安定し、倒産リスクが減少します。

 

自己資本比率は、以下の計算式で算出されます。

 

自己資本比率(=純資産÷(負債+純資産))

 

適正な自己資本比率は、企業や業種または戦略によって異なります。一般な平均は20 ~30%程になり、40%を超える企業は倒産の危険が低いとされますので、安全性を確認する際の一つの目安になります。

 

収益性と安全性はセットで扱う

 

企業の実態を把握するための各指標は分解することによって、指標の背後にある原因をより深く分析する事も可能です。例えば、ROEは、以下のようにより細かく分解することができます。

 

ROE=当期利益÷自己資本=(当期利益÷売上高)×(売上高÷総資産)×(総資産÷自己資本)

 

分解することにより、ROEに影響を与えているものが「収益性(=当期利益÷売上高)」(「効率性(=売上高÷総資産)」「負債の有効利用度(=総資産÷自己資本)」のいずれかであるかを特定することができるようになります。

 

「収益性」と「安全性」は、車の運転におけるアクセルとブレーキの関係と似ています。燃費のよい車であれば思いっきりアクセルを踏むことができますが、そのためには、ブレーキが確実に効くことが大事です。

 

企業もまた、収益性が高ければよいというわけではなく、同時に安全性を確認することで、利益が一時的なものではなく、長期にわたって生み出していけるかどうかの「確からしさ」も確認する必要があるからです。したがって、「収益性」と「安全性」はセットで扱うとよいでしょう。