企業の価値創造における「長期」の設定は企業によって異なる

企業の長期における価値創造

 

企業の価値を適切に評価してもらうためには、企業の将来の姿を投資家や銀行といった重要なビジネスパートナーに理解し共感してもらう必要があります。

そのためのツールの一つに、企業の過去・現在・未来における包括的な価値創造ストーリーを伝達する「統合報告書」という媒体があります。

 

統合報告書を作成する上での出発点は、「長期の価値創造の観点」から企業が主体的に情報を再整理・再選択することです。

 

しかし、「長期」といっても、企業によって、さらには同じ組織であっても人によって、時間軸の長さが異なります。ここでは、「長期」とはどのくらいの期間を意味するのかについて見ていくことにします。

 

「長期」ってどのくらい?

 

ある会合で、元大手外資系証券会社でアナリストをされていた方と「統合報告」や「長期投資」の話になりました。その方から「長期。長期っていうけど、一体”長期”ってどのくらいの期間をいうの?」と質問されました。

 

例えば、会計上は返済期間が「1年」を超える借入金や貸付金はそれぞれ「長期借入金」や「長期貸付金」に分類されます。

 

では、実際の経営においてはどうでしょうか。企業においては、中長期経営計画と言った場合、3年から10年くらいの幅で区切るケースが多く見受けられます。

 

一方で、ソフトバンクの孫正義代表取締役は、「我々は、300年以上成長し続ける企業グループを目指しています」というビジョンを掲げています。

 

次に、投資家サイドはどのように長期の時間軸をとらえているのでしょうか。例えば、不特定多数の方から集められた資金を大きな一つの資金プールとして、これを株式や債券などに分散して投資を行っている「投資信託(ファンド)」がどのような期間で投資を行っているのかを見てみましょう。

 

特に、長期投資の代表格として挙げられるコモンズ投信さんと鎌倉投信さんについて確認します。

 

まず、コモンズ投信さんでは、30年目線で30銘柄を選定している「コモンズ30ファンド」を販売しています。

 

また、鎌倉投信さんでは、「次なる世紀“2101年”に向けて、人と人、世代と世代 を “結ぶ”豊かな社会を、皆さまと共に創造したい」という想いを込めて、「結い 2101」という商品を販売しています。

 

以上のように、「長期」といっても、組織や業種、経営者により、時間軸の長さにはかなりの幅があることが分かります。

 

長期ビジョンの根拠

 

未来を予測することはほとんど不可能ですが、未来を創造することはできます。未来を創るために、経営者は明確にビジョンを描きます。そして描いたビジョンを、投資家・銀行・顧客・従業員といった重要なビジネスパートナーに共感してもらう必要があります。

 

「絵に描いた餅」になりがちな長期ビジョンは、どのように実現可能性の高いビジョンにすることができるのでしょか。それには、何らかの数値と合わせてビジョンを語ることが有効です。

 

長期ビジョンと一緒に語られる数値は、経営者の将来実現したい世界が実現したかどうかを証明する根拠となります。長期ビジョンの実現可能性を担保する数値を設定する際には、ビジョンのなかに含まれる抽象的な表現をなるべく具体化する必要があります。

 

3年、10年、30年、100年、300年と、長期をどのくらいの期間で捉えるかは、組織によって、また人によって異なります。長ければ長いほど良いというものでもありません。

 

重要なのは、その根拠です。根拠となる数値を適切に設定し、長期ビジョンの実現可能性の説得材料として活用しましょう。