企業の将来価値を創造するビジネスモデルの開示

投資家との信頼関係を構築する方法

 

企業が長期の投資家との信頼関係を構築する方法の一つは、情報を開示することです。特に、企業の価値創造の実態を伝達するための情報開示は、「統合報告書」という媒体を通じて行っている企業が増えてきました。

 

統合報告書とは、「企業が過去から現在までにどのような価値を生み出したのか」「将来にわたって価値を創造する能力があるのか」を知る手がかりとなる媒体です。

 

つまり、統合報告書で開示する情報の内容は、企業がどのような価値を創造したかという過去の情報だけではありません。最も重要な開示すべき内容は、将来の価値を創造する「しくみ」そのものです。

 

未来にわたって価値を創造する「しくみ」のことを、統合報告書では「ビジネスモデル」と呼んでいます。今回は、「ビジネスモデル」について見ていくことにします。

 

価値創造プロセスとビジネスモデル

 

統合報告書を作成するにあたっては、開示のための考え方や開示することが望ましい項目についての枠組みを示した「国際統合報告フレームワーク」を多くの企業では参考にしています。

 

この国際統合報告フレームワークにおいて、ビジネスモデルとは、下図「価値創造プロセスの全体像」の中心的な役割として組み込まれています。

 

【出典:国際統合報告フレームワーク(日本語版)p15】

 

この図を大きく分けると、3つの構成要素が見えてきます。それが左側にある「複数の資本」、右側にある「複数の資本」そして中央に位置付けられている「ビジネスモデル」です。なお、左右に伸びるさまざまな資本の線が「タコの足」のように見えることから、タコモデルやオクトパスモデルと呼ばれることもあります。

 

この価値創造の全体像を念頭に、ビジネスモデルで示されている「インプット」「事業活動」「アウトプット」「アウトカム」といったビジネスモデルにおける4つの構成要素について以下に見ていきます。

 

インプット

 

ビジネスモデルにおけるインプットとは、企業の価値創造において企業の内外に存在するさまざまな資本を意味しています。さまざまな資本とは、例えば「財務資本」「製造資本」「知的資本」「人的資本」「社会関係資本」「自然資本」が挙げられています。

 

これらの資本は、文字だけを見るとイメージがつかないかもしれません。ただ、実際は経営に関して多くの人に馴染みがあるものであり、これまでも企業にとって不可欠な「ヒト・モノ・カネ」を言い換えたものが含まれています。例えば、人的資本は「ヒト」、財務資本は「カネ」、製造資本は「モノ」に該当します。

 

従来の「ヒト・モノ・カネ」だけでなく、ヒトがつくった特許やもっているノウハウなどの「知的資本」や、取引先や重要な利害関係者の関係性などの「社会・関係資本」、さらには、空気・水・土地といった環境資源などを指す「自然資本」など企業の内外のさまざまなリソースをより包括的に捉えることが求められています。

 

事業活動

 

企業における主な事業活動は、他社との差別化要因を生み出す活動のことを指します。例えば、「ターゲットとなる市場の選択などの企画」「他社よりも自社製品の品質や機能を高くする製造」「集客方法のアプローチの選択などのマーケティング」などです。

 

また、販売方法の継続性や再現性がどの程度あるのかを説明することも重要なポイントです。例えば、単発の契約であれば多数の顧客を継続的に獲得していくことが必要です。一方、長期の保証契約であれば、安定して固定の顧客から継続して収益を上げることができます。

 

事業活動では、上記に挙げた「企画」「製造」「マーケティング」「販売」など、価値を生み出す一連の流れにおける重要な活動を記載します。
 
アウトプット

 

アウトプットとは、事業活動を通じて作られた、もしくは、事業活動の中で使用される「製品」や「サービス」を指しています。もちろん多くの事業を行っている場合や、取り扱う製品の数が多い場合は、すべての情報を開示する必要はありません。企業の価値創造において重要度の高いものを絞りこむことも効果的な開示を行う上では大切です。

 

アウトカム

 

アウトカムとは、「成果」です。事業活動を通じて製品やサービスを提供した成果は、これまで収益やキャッシュフローといった財務を中心に評価されてきました。

 

財務的な成果が重要であることに変わりはないものの、企業の事業活動を通じた成果は財務情報だけで評価することはできません。財務的な成果に情報の偏りがあるため、その他の情報についても総合的に捉えて開示することが大切です。

 

例えば、「従業員のモチベーションが上がった(もしくは下がった)」「組織の評判が改善された(もしくはダメージを受けた)」「顧客満足度が上がった(もしくは下がった)」など、内外の成果についてプラス及びマイナスの影響について開示していきます。

 

アウトカムは、インプットでみたさまざまな資本と関連付けて開示することが求められています。

 

以上のように、統合報告書におけるビジネスモデルでは、企業を取り巻く「さまざまな資本」「活動」「成果」を包括的に捉えて表現していくことが求められています。統合報告書で企業の実態を伝達し、投資家をはじめとするステークホルダー(=利害関係者)との信頼関係構築につとめ、企業のファンを増やしていきましょう。