重要な情報は多すぎると何一つ重要でなくなる:重要性の原則

統合報告書とは

金融機関や長期投資家にとって、企業から発行される「統合報告書」は企業価値を長期の視点で評価する上で有効なツールです。

これまで企業は、異なる利害をもった外部からの要請や他社が開示していることのプレッシャーによって、実にさまざまな情報を開示してきました。それにもかかわらず、開示されている情報間につながりが無いため、企業の全体像が正しく理解されていない状態でした。

統合報告書では、「長期の価値創造の観点」から企業が主体的に情報を再整理・再選択をします。そして、「一つのつながりのあるストーリー」として分かりやすく伝達するための媒体として作成しています。

情報が多すぎる

情報は単に減らせばよいというわけではなく、いかに企業のストーリーを簡潔に分かりやすく伝えられるかが重要です。そのためには、企業の長期の価値創造の観点から「重要なものだけ」を選択する判断能力が求められます。

「重要なものだけ」を選択するという考え方は、重要性の原則(マテリアリティ)と呼ばれています。しかし、増え続けた情報の中から、重要なものだけを選択することは実務上非常に難しいと感じている企業が多いです。

なぜなら、「あれもこれも重要に思える」「異なる部門で重要だと考えるものが違う」「重要でないものでも外部からの要請・プレッシャーに対応しなければならない」「重要なものを絞り込むための方法が分からない」といった理由があるからです。

なぜ重要なモノだけに絞り込む必要があるのか

どのように重要なものに情報を絞り込むかという方法論は大切です。しかし、そのような行動の前に、なぜ情報を重要なモノだけに絞り込む必要があるのかを理解し、思考を整えておく必要があります。

情報を絞り込むことの必要性を理解するには、情報を利用する側の立場に立って、その心理を理解する必要があります。

エルダー・シャフィール博士が行動経済心理学を基に提唱した法則に、「決定回避の法則」と「現状維持の法則」というものがあります。

決定回避の法則とは、「人は選択肢が多くなると逆に行動を起こせなくなる」という法則です。例えば、携帯電話を変えようとお店に行ったら、あまりにも種類が多すぎて結局選択できずにお店を出てしまうといったことです。

また、現状維持の法則とは、「人は選択肢が広がりすぎると、かえって普段と同じものを選んでしまう」という法則です。これは、先の例の続きでいえば、携帯電話の種類が多すぎると結局いつも使っている携帯電話のタイプを選んでしまうといったことです。

これは、企業の情報開示にも当てはまります。金融機関や投資家などの情報の読み手は、情報が多すぎると、どれを評価に採用すればよいか決定できません。または、結局いつも使っている情報のみを選択し、企業が本当に伝えたい情報に目を向けさせることができません。

企業が外部の全ての情報ニーズに対応すると、何一つ情報ニーズを満たすことができなくなる可能性が高まります。企業の価値創造の観点から重要なものだけを絞り込み、つながりのある形で開示することで、情報利用者は有効に統合報告書を活用できるようになります。