企業は、内外の利害関係者である従業員・顧客・株主などの利害関係者(=ステークホルダー)と信頼関係を構築するための手段の一つとして、積極的に情報を開示しています。
開示された情報の信頼性を高めるためには、一貫性が重要です。今回は、定量化された情報であるKPI(Key Performance Indicators)の一貫性について見ていくことにしましょう。
▼一貫性:エンロンのケース
2001年、米テキサス州に存在した総合エネルギー取引とITビジネスのエンロンが大規模な会計不正により倒産しました。私が米テキサスでの留学から帰国した年でもあり、2001年という年は鮮明に覚えています。
破たん直前の5年間において開示されたエンロンの指標を見てみましょう。
上記の表から、毎期報告している指標が変わっていることが分かります。見方によっては、その期において都合のよい指標が開示されていると捉えることができます。毎年変わる指標には、一貫性がありません。
「一貫性」は、KPIの「信頼性」を担保する一つの重要な要素です。エンロンは最終的には破たんしたことからも明らかなように、開示情報の一貫性の観点から企業の信頼性を判断することが大切です。
▼検証可能性:マイルストーンはKPIか?
企業のアニュアルレポートなどで開示されている定量化された情報には、あまり重要でない数値情報が含まれている場合があります。例えば、「マイルストーン」情報です。
マイルストーンとは、物事の進捗を管理するために途中で設ける節目のことです。これは、「何をいつまでに終わらせるか」といったプロジェクトマネジメントに適しています。「あるプロジェクトの実施回数」といった数値情報も、マイルストーン情報に該当します。
マイルストーン型の定量化された情報は、結果として良くなったのか、悪くなったのかの判断(=検証可能性)ができません。
このタイプの情報は、企業のパフォーマンスについての情報ではありません。情報利用者にとって有益でない情報は、ノイズ(雑音)です。ノイズの多い情報を開示することで、企業の信頼性を損なう可能性があります。
▼検索可能性:フィードバックの仕組みの一つ
KPIの信頼性を高めるためには、データや情報の有用性を高めることも必要です。有用性とは、データを適時に入手することが容易であり、また、使い勝手の良いデータであることが必須要件といえます。
使い勝手の良いデータとは、電子的に検索可能な状態で情報やデータを管理し提供することです。 その際、より信頼性を高めるために、用語の一貫性や情報の分類の仕方など考慮すべき点がいくつかあります。
情報を電子的に検索可能な状態にすることの最大の効果は、情報利用者からの質の高いフィードバックを得ることのできる仕組み(フィードバック・ループ)を作ることができる点です。
近年は、教育、医薬、飲食業界において大きな不祥事がありました。不祥事や不祥事前後の企業の情報開示は、企業の持続可能性や信頼性に大きな影響を与えます。一貫性のある情報開示を継続的に行う事によって、企業の長期的で強固な信頼性を獲得していきましょう。