財務数値などの分析の際にデータの数はどのくらい必要か

分析の対象となるデータの数

 

企業を財務的な観点から分析するとき、さまざまな数値を比較しながら企業の実態に迫ることになります。その分析の対象となるデータの期間数によって、分析結果が大きく異なるということがあります。分析をする側が気を付けるべきデータの扱い方のポイントについて、見ていくことにしましょう。

 

時系列で捉える

 

企業の主要な財務情報には、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」の3つの種類があり財務三表と呼ばれています。

 

そして、これらの情報に含まれている数値が、時間の経過とともにどのように変化したかを時系列で捉えます。そうすることにより、特別に注意を払わなければならない数値の変化の背後にある事業活動に目を向け、その妥当性や持続性などを分析していきます。

 

企業から開示されている情報からは、数値が示されるパターンとして「単年度」「2期間」「3期間」「5期間」「10期間」などが見受けられます。

 

実際には、「単年度」「2期間」のデータはあまり意味が無く、理想的には「7期間」以上のデータがより有用性が高いといえます。いかにその理由について見ていきましょう。
 
単年度のデータ

 

あらゆる数値に言えることですが、ある一時点の単独の数値に意味を与えることは不可能です。多くの企業の開示資料では、単年度のデータを単独で示していることがあります。しかし、情報利用者は単年度のデータから何の情報を得ることはできません。

 

数値に意味を与える為には、なんらかの「比較」ができる状態であることが前提となります。 なぜなら、「比較」をすることにより、類似性、同一性、差異性、優越といった「関係性」が明らかとなるからです。比較することで「関係性」が明らかとなり、初めて数値に意味を与えることができます。

 

2期間のデータ

 

それでは比較できるように2期間のデータがある場合を考えてみましょう。例えば、売り上げに関して前期と今期のデータがあるとします。この2期間表示も、多くの企業の開示情報でみられるパターンの一つです。

 

また、決算説明会などの動画などを見ると、分析側であるアナリストから前期と比較して「上がった」もしくは「下がった」理由について質問しているケースも見られます。

 

この2期間のデータ分析については、「開示を行う企業側」「開示情報に基づき分析する投資家側」の双方において、とても慣れ親しんだ手法であるが故に、特に疑問を持たないのではないでしょうか。

 

しかし、いくら比較ができるからと言って、2期間の比較からはデータの背後にある実際の物事の繋がりや今後の方向性を適切に把握することは困難です。

 

数値は時系列の動きの中で変動します。前期と今期という「点と点の比較」からは、正しい情報を受け取ることができません。結果として、誤った意思決定を行うことも少なくありません。

 

例えば、ダイエットをしている多くの人は、日々の体重の変動に一喜一憂します。日々、数値が変動するのは当たり前であるにもかかわらず、前日からの数値の変動に翻弄された毎日を送ることになります。

 

分析の際には、数値の変化が「通常の変動の範囲内」か「異常な変動」かを判断する必要があります。そのためには、2期間では少なすぎるのです。

 

ではどのくらいの期間のデータがあれば良いのか

 

データを適切に分析する際に必要なデータ数は、統計学上「7つ」とされています。その根拠は、確率論に基づくものです。

 

例えば、あなたがワインの知識も経験もなく、高級なワインか安いワインかを当てるゲームに参加したとしましょう。

 

最初に正解を当てる確率は、素人でも50%はあります。運よく、最初のゲームで当たったとして、次のゲームであなたが連続して正解を当てる確率は、50%のさらに2分の1の確率である25%になります。同じ様に、3回連続正解を当てる確率は、25%の2分の1の確率である、12・5%です。これを繰り返していくと・・・

 

 

上図からもわかる通り、7回連続当たる確率は1%を切ります。そのため、統計学上は7回連続で当たるということは、「偶然ではない」と判断します。

 

つまり、企業のケースで考えると、増収増益がもし7期連続続いた場合は、「偶然ではない」という判断になります。

 

一方、2期のデータのみを比較する場合は、前期と比較して今期が「増収増益」であったとしても、確率的に「たまたま」だったと判断します。

 

したがって、理想的には7期以上のデータを使って、分析の対象となる数値の変動を読み取ることが大切です。多くの場合、企業から開示されているデータは3期間や5期間です。

 

ただし、中には、「10年分の主要財務データ」として企業のホームページの「投資家向け情報」のセクションで提供されている場合もあります。これは、「投資家に自社の価値を理解してもらいたい」という姿勢の表れでもあります。ぜひこのような長期間のデータを活用して、適切な財務分析に役立ててください。