- 財務情報は「過去の情報」
投資家は、本来、「企業の未来を予測する」ために、財務情報を一つの材料として活用しています。しかし、財務情報が企業活動について多くを語ってくれる一方で、ほとんどの財務情報は「過去の結果」でしかありません。
過去からのパターンは、将来についてのヒントを提供してくれることも事実です
しかし、その過去のパターンをベースに将来の企業のパフォーマンスがどのように形作られるのかについて予測するためには、多くの仮定を行う必要があります。仮定とは、不確かなことを仮に定めたものであり、客観性が低く将来予測には有効ではありません。
- 先行指標で企業の未来を予測する
そこで、「先行指標」と呼ばれる指標を使って、将来のパターンを先取りすることが大切です。先行指標とは、過去の結果である売上や利益などの数値(=遅行指標)が将来どのように反応するかを示唆する数値です。
先行指標とは、マラソンでチーム全体を引っ張る為に、先頭を走るリーダーのような存在です。適切なリーダー(先行指標)を選択すれば、後からチームメートである財務情報(=遅行指標)が必死で付いてきます。
売上や利益についての将来を予測するための先行指標には、例えば「顧客満足度」「従業員満足度」「顧客からの質問を解決するスピード」「新商品比率」「パイプライン数」「改良件数」「研究開発スピード」「新規顧客獲得件数」などが挙げられます。
これらは必ずしも金額に換算できるものではなく、また、金額に換算する必要もありません。
ただし、企業価値を算出する際には、「将来キャッシュフローを生み出していける力」を測定することも一つの方法のため、売上や利益につながる先行指標を選択し、つながりを確認することが必要となります。
現在、多くの企業でも、財務情報に加え、非財務の指標の開示が進んでいます。ただし、財務と非財務の関連性を十分に説明できている企業は少ないのが現状です。非財務の指標であっても、財務に与えるインパクトがどのくらいかが明確に示されていないと、それらが本当に先行指標なのかどうかが分かりません。
投資家は開示されている指標を戦略やビジネスモデルを理解したうえで、自らつなげていく能力を向上させることが必要となります。
KPI:Key Performance Indicators(主要業績指標)
- 先行指標と遅行指標のつながり
例えば、環境対策は企業の社会的責任の観点からも多くの企業で取り組まれ、「CO2排出量削減」はある非財務的な目標のひとつです。これは、外部向けに開示されていることが多く、とりやすい情報です。
企業はただ単に社会にとって良いことをすればいいのではなく、本業を通じて社会に貢献し、それにより売上や利益につなげていくことが求められています。
環境対策もまた、「事業を通じて環境負荷を低減する」「環境に負担のかからない製品を作る」ということが重要であり、それにより企業としての信頼や評判(レピュテーション)が高まり、売上や利益へとつながっていきます。木を植えることが、企業の社会的責任ではないのです。
この売上や利益への道筋を明らかにするためにも、先行指標が必要です。多くの企業においては、「満足度」「スピード」といった目には見えないものをどのように測ればよいのか分からなかったり、最初から「そのようなものを定量化するのは無理だ」と決めつけてしまっているケースもあります。
しかし、適切な先行指標が開示されていないと、投資家は適切に企業価値を評価することが困難になります。「どのような先行指標があれば売上や利益へとつながる道筋が明確になるのか」について、投資家から企業側へ提案することも大切です。
- 分析の方法
先行指標と遅行指標は、因果関係もしくは相関関係といったように関連しています。分析の際には、少し工夫が必要です。
例えば、横軸(X=売上)と縦軸(Y=顧客満足度)の2軸をとり、それぞれの変数が交わるところに点をうって2つの関係性を確かめる方法である「散布図」を活用してもよいでしょう。
また、先行指標と遅行指標の間には時間的なギャップが生じる為、時系列で数値を捉えることによって、その時間的ギャップがどのくらいなのかを把握することができます。
企業の開示情報のなかには、さまざまな指標が開示されています。まずは、それらが先行指標なのか遅行指標なのかを見極めましょう。
そして、先行指標が遅行指標である財務的な結果につながるかどうか、企業の「ビジョン」「戦略」「ビジネスモデル」といった記述情報にも目をむけ、整合性を確認してみてください。