利益とキャッシュは違う
「利益はあるけどお金はない」「利益とキャッシュは違う」といったことを聞いたことは多いのではないでしょうか。そこで今回は、利益とキャッシュの違いについて見ていくことにします。
まず、利益を計算するには、企業の事業活動の1年分を切り取った損益計算書というものを作ります。損益計算書をみると、利益の計算そのものは「売上-費用=利益」といたって単純です。
しかし、その背後には複雑な会計基準が用意されています。それは、「売上や費用をどのように計上するか」という考え方の基礎となるものです。
ここで重要なのは、利益の数値は、損益計算書を作る人の会計基準の解釈や会計方針の選択によって、変わるということです。つまり、「作り手の都合で利益の金額はいくらでも操作できる」という事をまずは理解することが大切です。
一方、キャッシュの増減は、企業の事業活動における1年間の現金の流れに焦点をあてたキャッシュフロ―計算書を作り、把握します。キャッシュフローは事実に基づき計算されるため、作り手の都合で数値が変わることはありません。誰がつくっても、キャッシュの増減は同じ金額になります。
「利益を計算すること」は、「女性がお化粧をすること」に似ている部分があります。お化粧の仕方によっては、別人に見えてしまう人がいます。都合の悪いシミやしわを隠し、厚塗りのファンデーションで仕上げれば表面的には綺麗に見せてしまうことは十分に可能だということです。
一方、キャッシュはごまかしの効かない素顔の状態といえます。
もちろん、利益を計算することは、必ずしも「ごまかす」という事ではありません。ただし、ごまかすことを完全に排除することはできないという点には注意が必要です。
ビジネスにおける取引の種類
ビジネスにおいては、現金での取引の他、信用取引で成り立っています。信用取引とは、「掛け」での売上や仕入れの事です。
「掛け」とは、たとえば商品を販売したと同時に現金による入金を受けず、月末などある一定の期間を経過した特定の日に入金されることです。
クレジットカードのクレジットが「信用」を意味し、特定の日に引き落としがされることと同じです。クレジットカードも、まさに信用取引のために使われています。
利益の計算においては、現金の支払や入金ベースではなく、このように信用取引ベースで売上や費用を計上するため、認識のタイミングの違いからキャッシュと利益の額に「ずれ」が生じるのです。
収益と費用は期間対応させる
他にも、キャッシュと利益のズレが生じる要因として、減価償却という会計の考え方を理解する必要があります。例えば、会社の営業用に200万円の車を購入したとします。これはキャッシュで購入すれば、キャッシュフロー上は200万円のマイナスになります。
一方、利益を計算する上では、車の購入金額を使用可能期間である耐用年数で割って、1年分の費用を算出します。車の耐用年数を4年とすると、200万円÷4年=50万円となり、利益に与えるインパクトは50万円のマイナスとなります。
このように、1年超にわたって利用価値があり、年数がたつほど価値が低下する資産については、1年単位で費用を認識していくという処理を行います。
たとえば、高価な10万円のコートを買おうと迷うとき、「これは5年は着れるから1年あたり2万円。2万円のコートを買ったと思えば安い」といったように自分を納得させる時と同じような思考です。
なお、認識の方法には、定額法と定率法があります。定額法では、耐用年数で割って毎年一定の金額で費用を認識するものです。一方、定率法では、一定の割合で費用を認識する方法です。これは、償却性資産の消耗が激しく価値が低下する度合いが初期の段階において大きい場合などに適用されます。
2つの異なる切り口からのアプローチ
このように、「現金取引と信用取引の違い」や「減価償却費の認識」は、キャッシュと利益のずれを生む大きな要因です。
分析する人によって、「損益計算書から見る」か、「キャッシュフロー計算書からみる」かは違ってくるでしょう。
いずれの場合においても、損益計算書における利益とキャッシュフロー計算書におけるキャッシュは企業を理解するための異なる切り口であるということを認識することが大切です。
これらの情報の違いや関連性を総合的に見ることによって、企業の事業活動の実態をより適切に把握することができるようになります。